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GPIF年金運用損「5.3兆円」よりも深刻な問題

公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、2015年度の運用実績が5.3兆円の赤字になったと発表した。

 GPIFは一昨年11月に運用資産に占める株式の割合の上限をそれまでの2倍にあたる約50%に拡大し、実際に株式の運用比率を44%にまで買い進めたが、そのタイミングで昨年後半にチャイナショックなどのグローバルな経済危機が表面化した。そして運用結果が危ぶまれていたなか、実際に3月末時点では5年ぶりに運用実績は赤字になったことが今回発表されたわけだ。

 この赤字が巨額だということで「問題だ」と声高に叫ぶ政治家も出てきたが、実際の問題はそこではない。GPIFの資産運用については後述するように大きな別の問題がふたつあり、赤字を出したこと自体は実は問題ではないのだ。まずはその話から説明しよう。

長期運用の視点で見れば
損失5.3兆円は大きくない

 なぜ5.3兆円もの損を出したのにそれが問題ではないのか?それは巨額な資金を運用していけば「そういう結果になる年はかならず出てくる」からであり、かつ「累積の運用実績でみれば吸収できる範囲内の損失」だからである。

 実際、2012年度から2014年度にかけては3年連続して運用収益は10兆円を超えている。円安とアベノミクスで株価が上昇したからだ。その前の民主党政権時代でも震災で経済が停滞したにもかかわらず3年間合計すれば10兆円規模の黒字と、過去の実績は悪くない。

 2001年度に年金資産の自主運用を開始してからの成績を見れば、134兆円の運用資産の累積収益額は45.4兆円の黒字で年率2.7%の運用収益を上げている。単純計算では年金の運用資産の3分の1は運用収益という計算になるから、これは資産運用として考えれば堂々たる好成績だ。

 昨年度の損失5.3兆円は運用収益率で計算すればマイナス3.8%という運用成績で、長期運用をしている場合の単年度の損失としてはそれほど大きな数字ではない。単年度の赤字が巨額に見えるからといって、その結果だけを非難するのは、運用を知っている者からみればナンセンスな話なのである。

しかし実は今回の年金の損失については、それとは別にふたつ大きな問題点がある。今回はその話をすることにしよう。

 ひとつは2014年11月に発表されたGPIFの運用比率変更が“政治的に利用された疑惑”が強いことだ。ちょうどこの時期は、アベノミクスに翳りが見え始め実体経済が不況に向けてすべりだしていた時期に相当する。国内経済の停滞は中国経済の減速などグローバルな経済の状況を反映したもので、実際に日本同様にそれまで上昇してきていた米国の株式指数は、2014年11月をピークにそこからの1年半、ほぼ停滞する。

 ところが2014年11月末に1万7459円だった日経平均は、GPIFが株式での運用比率を倍にすると宣言した後、世界経済の実態とは関係なく上昇を続け、2015年4月には2万円台を回復し、そのままの水準を夏まで維持することになる。

 GPIFのような巨大な機関投資家が株式を買い集めていけば相場が上昇するのは当然だ。GPIFが購入するとわかっているから他の機関投資家も先回りをして優良な日本株を買い上げていく。その相乗効果で株価が上がっていく。

 そして2015年11月に政府が肝いりで実行した日本郵政の株式放出が行われる。それを成功させるために株価を政府が高く維持したのではないかと勘ぐられるのはこのイベントがあったからだ。この翌月が日経平均の上昇劇のピークになって、それ以降、日経平均が下落し現在の1万6000円台に落ち着いているのは、みながよく知っているとおりの結末だ。

 さらに今回の損失額の発表時期が、本当はもっと前からわかっているのにもかかわらず参議院議員選挙の後に発表することが決められたことを含めて、本来は独立して運用すべき公的年金が“政治利用されている”という疑惑が持ち上がっていること。これが第一の問題だ。

 ただこの点だけで言えば実は「済んだ話でこれ以降は起きない問題」だと捉えることもできる。現在のように株式の運用比率を5割程度、債券の運用比率が5割程度というのは長期的な資産運用としてはかなりリスク資産に振った状態だ。

まだここからもう少し株式の運用比率を上げようという議論はありうるかもしれないが、現実的には限度がある。つまり年金の運用資金による莫大な日本株の買い上げは、それがたとえ政治利用だったとしても今回一回っきりしかできない。

 年金のような長期運用資金は投資した株式をずっと持ち続けるのが基本だ。売ったり買ったりして資金を減らすような運用はできないので、その意味では運用の総量を増やすという手口を政治利用するというリスクは今後は大きくはない。

 むしろもうひとつの問題はGPIFがその多くの資金を日本株に投資していることである。

日本株と国債に偏った投資は
年金の最適なポートフォリオなのか

 繰り返しになるが年金の運用は長期運用が基本である。売ったり買ったりではなく、一度買った長期的に有望な資産をずっと持ち続けるという、かのウォーレン・バフェットの資産運用術とまったく同じ形になることが理想である。

 そしてそのポイントは、投資をした会社が長期的に成長するので、結果として運用した資産も長期的に増えるという点だ。

 つまりGPIFが投資をして、それが長期的にいい結果を生むためには、日本の大企業がこれから数十年にわたって成長をしてくれないと困るのだ。私はここが難しいと思っている。

 実際にはグローバル経済の中で日本企業が米国、中国、ヨーロッパ、インドなどさまざまな国の企業と戦っている。勝ち残る企業もいれば、その中では沈んでいく企業も当然出てくるだろう。

 日本政府であれば日本企業に肩入れした育成をするというのは許されるが、GPIFは年金である。投資が長期的に最適な形で増えていくようにするのであれば、正解は世界株ポートフォリオに投資をすることだ。

 その観点で見て、明らかに日本株と日本の国債に偏った現在の運用方法を見ると、現在のポートフォリオ自体が「やっぱり政治利用されているのではないか?」と思われてしまう。

 年金は政治から独立すべき。ここに問題の深淵があるのだ

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