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大統領選ヒラリー敗北で「ダウ暴落」の真実味

2016.09.13

いきなり歴史の話から入って恐縮だが、関ヶ原の合戦(1600年)では西軍に大義があり、その点では徳川方は不利だったはずだ。しかし正義が勝つとは限らない。同じような雰囲気が漂いだしたのが、米国の大統領選だ。

今回共和党は、常識派には信じられない非常識なトランプ氏。そこで過去は中立的だった主要メディアも、今回は躊躇なく、民主党のヒラリーの応援に回った。ところが最新の調査では、再び支持率は拮抗している。そしてオハイオやフロリダの最重要州でトランプに逆転されている状態が伝わった木曜日、ヒラリーはトランプ支持者の半分は「deplorable」と言ってしまった。

米株急落は、利上げ云々の単純なストーリーではない

deplorableは、米国在住が長くなった筆者でも、普段はあまり聞かない言葉だが、嘆かわしい、哀れ、情けないなどという意味らしい。ヒラリーは、知性を出したかったのかもしれない。

だがメディアは、トランプ本人を攻撃するのではなく、国民・有権者を馬鹿にしたヒラリーという見出しで一斉に報道した。トランプはこれまでヒラリーとオバマを徹底的に攻撃しているが有権者を批判したことはない。そんな中、ついに切れた?ヒラリーは、トランプより過激な行動にでてしまった。この大失態で、ヒラリーを応援してきた主要メディアも、フォローが出来ない状態に陥った。

さらに筆者が驚いたのは、オバマ政権がプーチンとシリア問題で妥協すると報道されたことだ。IS撲滅のためとはいえ、ヒラリーはプーチンを褒める、トランプの非常識を攻撃材料としたばかりではないか。そのプーチンとの妥協を、こともあろうにオバマ政権が発表したのは、ヒラリーからすればオバマに裏切られた思いだろう。ただし個人的には、これはレームダックのオバマ政権のやむをえない優先順位を表していると考えている。

本題からややずれるが、9日の米株の下落(NYダウは前日比394ドル安)にも関係するので、ここで触れておきたいのが、任期わずかのオバマ政権の緊急課題だ。それは「二人のミレニアル主導者」への対応である。特に切迫しているのは度を越した北朝鮮の党委員長・金正恩だ。核実験は400ドル下落の一つの理由だ。そして、その先にあるのが、議会がテロ遺族の賠償金請求を可能にする法案を可決したサウジアラビアである。

金正恩もサウジの皇太子も、アメリカ文化に憧れる?ミレニアル世代である。オバマはミレニアル世代にも近いジェネレーションXの世代。だが、これから米国は非戦的なオバマの世代から、古い世代へ大統領が逆戻りする。これに焦る金正恩に中国がどう出るか。先のG20をみても、ここぞとばかりに各国が動き始めた様子である。

力を持つブーマー世代と、若いミレニアル世代の間で悩み続けたオバマ。彼が最後に北朝鮮をどうするか。もし北朝鮮に日本株が反応しないなら、個人的には安心というより、日銀の買い支えで、政治リスクへの感覚が麻痺する副作用の方が心配だ。

そして、重要な9月11日のテロの式典に出席したヒラリーに信じられないことが起きた。ヒラリーは式典の途中で気を失いかけ、そのまま退席したのだ。健康問題を攻撃材料にされている彼女としては、絶対に避けたい出来事である。もしそれが出来なかったのだとしたら、ここまで気丈に頑張ってきた彼女に、何か異変が起きている可能性がある。

ヒラリーの支持率は、なぜ落ちてきたのか

金融市場関係者をみると、元々ヘッジファンドの一部には熱烈なトランプ支持者がいる。一方で、一般的な順張り中長期バリュー投資(いわゆるパッシブ型)運用者は、ヒラリー勝利を前提にしてきた。

昨年来、高い手数料(利益の20%)なのにパフォーマンスが悪いヘッジファンドからパッシブ運用への資金移動が顕著になった。そんななか、民主党大会が終わり、支持率でヒラリーがトランプを引き離した頃から相場は上昇。ここではパッシブ型運用者が、大統領選の不透明感が和らいだことで(ヒラリー勝利へ)いよいよ新しい相場に向け動き出したといわれている。

では、選挙戦の形勢が変わればどうなるのか。大統領になったトランプが、予告どおりイエレン議長をクビにすることを想定するのは早いだろう(そのときのダウは2000ドル程度下落?)が、政治的思惑は、これまで以上にマーケットに影響を与える。ただし初動はヘッドラインに反応する電子取引が支配する。我々はその値動きに慌てるのではなく、背景の政治情勢を理解することが、より重要になっている。

ここでもう一度選挙戦を整理すると、金銭面で共和党を支えているといわれるのは、石油化学大手Kock industries のコック兄弟。その一人、デービット・コック氏は、自身の応援した候補者がことごとくトランプに敗れ去った後、ヒラリーとトランプの対決を”癌か、心筋梗塞かの選択“と表現した。また中立的な評論のなかにはevil(邪悪)とstupid(愚か)の争いと 揶揄するものさえあった。

今、支持率は、ここにきてトランプの愚かさより、ヒラリーの邪悪さが目立ってきたからだ。ただしサプライズではない。以前このコラムで紹介したDモリス氏は、トランプがヒラリーに勝つ手段として、以下の重要争点を挙げていた。

① ヒラリーの政治的な過去は変えられないが、ビジネスマンのトランプの過去は政治家よりも軽い。さらに破天荒な態度は徐々に変えていくことが出来る。

② ヒラリーが勝つと空席の9人目の最高裁判所判事をヒラリーが任命する。最高裁判事に任期はなく、本人が自分で辞めるまで、亡くなるか、弾劾されるまで、延々と続く。現在最高裁のバランスはリベラルが4人保守4人。ヒラリーがリベラルな判事を選ぶと、ヒスパニックや不法移民が大量にアメリカ人になり、アメリカはアメリカでなくなる。

③ このまま民主党政権が続いてサンダース化が加速すると、アメリカは欧州のような「社会主義国家」へ移行する

ヒラリーが嫌われている本当の理由とは?

7月の党大会でヒラリーがトランプを引き離したのは、イラクで戦死したイスラム兵士の両親を利用したからだが、圧倒的数の白人戦士者の親にとっては、なぜアメリカはこんな愚かな戦争へ突き進んだのかの方が本当は重要である。そこでは保守派を代表したブッシュ大統領に、反対すべき民主党の上院議員たちまでもが、なぜ賛成したのか。

ヒラリーは、トランプの発言の非常識を攻撃することで自分の過去を隠してきたが、トランプがメキシコを電撃訪問し、敵対しているはずのメキシコ大統領からも受け入れらたことで、今度は自分の過去の弁明をする羽目になった(2003年のイラク決議への賛成)。これからは討論会など②と③が焦点になる。討論となれば、あの共和党の激戦を勝ち抜いたトランプは手強い。

そして彼女が嫌われている最大の理由は、民主党のピラミッドの頂点に立つビル・クリントンの邪悪なイメージを、ヒラリー自身が背負ってしまっているからだと思う。ビル・クリントンが本当に邪悪かどうかはわからない。だが私生活が露見してからは、正直ではないレッテルを貼られてしまった。男としては気の毒なのだか、クリントン時代の好景気を知らないミレニアルからすれば、ヒラリーは何回も浮気をした夫を赦してしまった古い世代の女性に写る。

一方のトランプは、本業とは裏腹に自分は酒も飲まず、大麻などにも否定的。ビル・クリントンが、1992年の大統領選で、学生時代の大麻問題を追及された際、「臭いはかいだが肺まで吸い込んでいない」という情けない言い逃れをしたこととは対照的だ。トランプは非カソリック系の白人キリスト教信者から強い支持を受けているが、彼の離婚回数は正直さの表れであり、リベラルなクリントンの浮気の回数は、正直ではない証明ということになるのだろう。

イリノイとミズーリの州境に近いインディアナ州の小さな行政区であるVIGO(ヴィーゴ)郡は、以前より一部の選挙分析のプロの間で注目された町だ。理由は過去100年、本選に突入する前の予備選の段階で、その町で一番人気になった候補者が大統領になるケースが「神がかり的数値」だからである。

VIGO郡では1888年から2014年までの大統領選挙で外したのは、わずか2回だけ。1908年とタフト大統領と1952年のアイゼンハワー大統領である。筆者がこの記事を読んだのは昨年の12月5日だった。正直驚いた。なぜなら、その段階でこの町が示唆していた2016年の大統領選の勝者はトランプだったからだ。

その後、ずっとトランプが勝つ可能性を冷静に見てきたつもりだ。もちろん3回目の“外れ”の可能性はある。トランプは1970年代、危険だとして父親が反対した荒廃したマンハッタンの再開発に成功。1980年代は誰もやらなかった春のプロフットボールリーグ開設にも成功した。

しかしその成功の後、不動産からカジノ経営に拡大して失敗(タージマハール)。また春のプロフットボールリーグ(USFL)が軌道に乗ったのに、本家のNFLとの合併を強引に画策して失敗した(独占禁止法で告訴したが敗訴)。結局、春のフットボールリーグも3年で消えた。

つまり、トランプは「against all odds」 の逆境には強い。しかし、自分が優位になった後オーバーステップをしている。ならば支持率でヒラリーを抜き、勝利を確信した後が興味深い(まだそこまでなっていないが…)。

「常識が非常識に負ける」ことを想定せよ

いずれにしても、トランプショックへの対応は、もう少し先として、問題はトランプショックの本質を今のうちに理解することが重要だろう。なぜならトランプが負けても、必ずアメリカでは次のトランプ現象が待っているからだ。

冷戦後のグローバル化の軸となったリベラル的知性。ほとんどの市場関係者はこの時代しか知らない。今はその時代に神になった中央銀行のヘッドラインに完全に市場は支配されている。

ところが時間とともに、それでは解決できない停滞期を迎えると、今度は強烈な個性が停滞をぶち壊しにくるサイクルである。アメリカではそれをwisdom of crowdとbrilliance of greatness として、歴史的には両方を尊重してきた。よって常識が非常識に負けることは、米国ではそれほど驚くことでもない。一方で、常識が負けることがほとんど想定されていない日本は、それをイメージしておくことがそろそろ必要だろう。

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