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「悲惨なアメリカ」を証明した、二つの衝撃レポートの中身

国民総生産(GDP)1600兆円超を維持するアメリカ。中国に抜かれるのは時間の問題と言われながらも、数字上では世界のトップに君臨し続けている。しかし、そのアメリカが、社会的には「後進国」であることを示すレポートが発表され、衝撃が走っている。

このレポートは、ハーバード大学経営大学院教授のマイケル・ポーター氏が発案したNPO「ソーシャル・プログレス・インペラティブ」が分析、作成したもの。その国の社会の発展度が、栄養と基本医療、教育、個人の安全、寛容性、個人の権利など53の観点から評価され、その数値、順位が示されている(この数値は、社会的発展指数=ソーシャル・プログレス・インデックスと呼ばれている)。


この機関が発表した2016年度の最新レポートによると、アメリカは、一人あたりの国民総生産は133カ国中第5位であるものの、社会発展指数は第19位と、14位の日本以下に留まっているのだ。ちなみに、第一位はフィンランドで、カナダ、デンマークなど北欧諸国が中心にトップ10入りしている。

(実際のレポートはこちらから→http://13i8vn49fibl3go3i12f59gh.wpengine.netdna-cdn.com/wp-content/uploads/2016/06/2016-Social-Progress-Index-Executive-Summary.pdf)

他の指標を細かくみても、アメリカは「個人の安全」で27位、「基本的知識を入手できる機会」は40位、「個人の権利」は26位、「環境の質」は36位、「健康と福祉」は69位…と、世界で最もお金持ちの国とはとても信じられないような順位に留まっている。


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それどころか、このレポートはアメリカが忌み嫌っている社会主義国とも変わらない、あるいは劣っている状況にあることを指摘している。

この二つのグラフを見てほしい。


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上のグラフ(P19)は、国民一人あたりのGDPと社会発展指数の関係を表したものだ。なだらかな曲線は両者にほぼ相関関係があることを示してはいるものの、この曲線に到達しない国がある。つまり、国民一人あたりのGDPの額と、社会の発展具合いが比例していない国々だ。これをみると、アメリカは、曲線上とギリギリのラインにいることが分かる。

また、下の棒グラフ(P20)は、国民一人あたりのGDPが大体同じくらいの国々と比べた場合、社会発展指数がより高い(あるいは低い)国はどこかを比較したものだ。


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社会発展指数がより高いのがグラフの左側。コスタリカが最も高く、一人あたりのGDPの割には社会が発展していることを示している。一方、社会発展指数がより低いのが、グラフでは右側の国々。中国、ロシア、サウジアラビアなどが名を連ねている。

ご覧になればお分かりのとおり、アメリカもこのグループに入っている。先進国中では最低のランクで、かつ、中国よりも低いのである。資本主義のシステムが最も発達しているアメリカが、「社会の発展度」という点では社会主義国と変わらないとは、何という皮肉だろう。

このことが何を意味するのか。世界中からアメリカに集まっている富が、社会の発展に寄与するようには分配されていないことを示しているのだ。では、富が誰の手に渡っているかといえば、いわゆる「トップ1%」の人々である。残る99%の人々の社会生活の改善のために富が分配されるような政策が取られていない、ということだ。

大統領選を控えたアメリカで、もうひとつ衝撃的な論文が発表された。「ビッグバンクはより健全になったか?」と題されたその論文によると、アメリカの大手銀行の健全性が、世界金融危機前よりも低下しているというのだ。

論文を執筆したのは、元米国財務長官で、現在はハーバード大学教授のローレンス・サマーズ氏。金融危機後に打たれたあの手この手によって、少なくともアメリカの大手銀行の健全性は、危機前よりはるかに高まっている――政府関係者や金融セクターのリーダーたちはそう信じていた。ところが、それは誤りだったというのだ(論文を執筆したサマーズ氏自身が分析結果に驚き「予想していなかったことだ」とテレビのインタビューで答えている)。

サマーズ氏はハーバード大学の同僚であるナターシャ・サーリン氏とともに、アメリカの6つのビッグバンクと世界の50のビッグバンクのデータを使って、価格の変動率、ベータ値、CDS、株価収益率、優先株配当金など様々なリスクを検討した。その結果、バンクが金融危機前より健全になった、という証拠を見出せなかったのである。特に、株価の不安定さを示す株価変動率とベータ値については、金融危機前よりも高くなっており、値動きが激しくなっているという。

これについてサマーズ氏は、金融危機後にオバマ政権が実施した金融規制措置が、むしろマイナスの影響を与えてしまったという見方を示している。

金融危機後に取られた金融規制措置――それはすなわち、オバマ大統領が2010年に署名したドッド=フランク法のことを指している。金融機関の監査を強化して、透明性を改善し、金融市場を安定化する目的で作られた法律で、企業投資や経営者報酬など様々な点で数多くのルールが設けられた。

サマーズ氏はこれについて「ドッド=フランク法などの規制措置がなければ、今の金融システムはもっと脆弱になっていただろう」と一定の評価は与えてはいるものの、その効果の程については疑問を抱いているようだ。

規制が行き過ぎたのか? あるいは、十分ではなかったのか? この法律について様々な議論がなされてきたが、マサチューセッツ工科大学名誉教授のノーム・チョムスキー博士は、2013年に筆者がインタビューした際、「ロビイストたちが金融規制を弱めるために、ドット=フランク法の一部を書き換えさせた。こういうことは、ワシントンではよく起きる」と、この法律が骨抜きにされたものであることを指摘していた。

さらには、「アメリカの選挙は莫大な企業献金に頼っているため、議員は企業の要求を飲む行動をしてしまう。そのため、金融機関も規制されなくなってしまう。アメリカには“ビジネス党”という一党しかなく、政治が全然機能していない」と主張し、オバマ大統領は結局貧しいものの味方になることができなかったと見ていた。

波紋は、どこまで広がるのか

イギリスの著名なシンクタンク「OMFIF」も、オバマ大統領の経済実績を分析し、「2009年、大統領就任後に彼が打ち立てた明るい展望とは裏腹、失望を与えるものだ」と結論付けている。例えば、オバマ大統領は就任直後に「次の10年間のGDP成長は20%になる」と予測していた。

しかし、フタを開けてみると実際は10%程度にとどまっている。また、「2015年までには予算の赤字をGDPの1.2%にする」と息巻いていたが、それも2.5%で停滞。また、国家の赤字はGDPの48%にすることを目指していたものの、実際には74%で終わってしまった。

これらを分析したうえで、OMFIFは「二ヵ月後の大統領選では、経済政策が焦点になるのではないか」と指摘している。加えて同機関のディレクター、デビッド・マーシュ氏は「オバマ大統領が収入の不平等を軽減できなかったこと、経済的機会を改善できなかったことが、多くの投票者を失望させてきた」と話している。

国民総生産が適切に分配されていない「社会的後進国化」が進み、ビッグバンクの健全性が低下している――オバマ大統領の失策によって生じたこれらの問題に、アメリカの国民の多くが怒りを感じていることだろう。

9月27日に行われたトランプ、ヒラリー両候補による第一回目のテレビ討論会で、ヒラリー氏はバラ色のようなアメリカの未来を訴えたが、その姿は、8年前のオバマ大統領の姿と重なって見えた。一方のトランプ氏は「オバマ政権は7年半で赤字を倍に膨らませた」と、民主党政権の経済政策の失態を指摘している。

二つのレポートが引き起こした波紋は、どこまで広がるだろうか――。

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