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新しい資金調達方法で「株式会社」は消えるかもしれない

2016.10.06

技術革新が進むかどうかは、資金の調達方法によっても影響される。

 これまでも、ベンチャーキャピタルとIPOという新しい手段がIT時代を拓いた。インターネット時代になってからは、クラウドファンディングが登場した。

 最近、ICOというまったく新しい方式が登場し、この1年間程度の間に爆発的に広がっている。これは、自律的組織がクラウドセールによって資金調達を行なうものだ。

 この方式が広がれば、従来の金融のシステムを根底から覆すことになるかもしれない。

ベンチャーキャピタルとIPOの時代
技術革新はベンチャービジネスから生まれた

 株式会社という仕組みは、リスクのある事業に資金を集めるためにつくられた。しかし産業革命以降、会社の規模が巨大化し、会社がリスクを取らなくなった。

 IT時代の初期、技術革新は、巨大企業から生まれたのでなく、ベンチャービジネスから生まれた。株式会社組織は、新しい技術を開発するための組織としては、うまく機能しなかったのだ。

 スタートアップ企業に投資したのは、ベンチャーキャピタルだ。そして、一定の段階になれば、スタートアップ企業がIPO(株式公開)する。

 1970年代のアメリカでは、インテル、サン・マイクロシステムズ、マイクロソフト、アップルコンピュータなどの企業が、ベンチャーキャピタルから資金を得て成長した。

 その後もヤフーやグーグルなどが、最近ではフェイスブックやツイッターなどが、ベンチャーキャピタルからの資金援助を得てスタートした。

 ある部門が将来成長するかどうかを見るのに、ベンチャーキャピタルの投資が行なわれているかどうかで見る場合が多い。グーグルやアンドリーセン・ホロヴィッツなどのベンチャーが投資していると、有望だと考えられる。

 以上の状況については、ダイヤモンド・オンライン、「かつてのハゲタカは今や開拓者! 米ベンチャーキャピタルの実像」(2015年5月14日)で述べた。

 いまでも、ユニコーン(未公開で時価総額が10億ドル以上の企業)がこのような図式の中で成長している。そのトップ10社を、この連載の第2回「日本の情報関連技術の遅れは『企業の閉鎖性』が原因だ」の図表2:ユニコーン企業トップ10社で示した。

しかし、技術開発資金を提供するというIPOの側面は、次第に薄れているように思われる。

 2014年のIPOリストでは、アリババ、ゴ―プロ、レンディングクラブなど、新技術を開発したベンチャーが目立った。

 ところが、ナスダックによる15年の5大リストでは、新技術関係は少なくなっている。

 歴史的に見ても、IPOで巨額の資金を調達したのは、中国の国有銀行やGMなど、技術と関係ない企業が多い(Top 10 Largest Global IPOs Of All Time)。

◆図表1:大規模IPO


(資料)Wikipedia
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インターネット時代の到来
クラウドファンディングが登場

 インターネット時代になって、クラウドファンディングが登場した。

 不特定多数の人がインターネットを経由して、他の人や組織に開発資金などを提供する。一定額が集まった時点で、プロジェクトがスタートする。資金提供者は、製品の優先割引購入権などを得る。

 アーティストの支援、政治運動、映画製作 、フリーソフトウェアの開発、発明品の開発などに用いられてきた。

 株式のように明確な経済的利益を与え続けることは、あまりない。どちらかというと、ボンラティアによる支援といった色彩が強い。

 投資を集める場として、Kickstaterなど多数のサービスがつくられている。

 図表2には、クラウドファンディングによって資金調達したプロジェクトのうち、調達額の大きいものが示されている。最大の資金を調達したのは、Star Citizenというゲームだ。

 Kickstarterで目標額の4倍以上である213万ドル(約2億3000万円)を調達し、本作公式サイトでの独自ファンディングと合わせて、5888万ドル(約63億6000万円)の開発資金を得ることに成功した(なお、図表2に示すwikipediaのリストでは、1億2410万ドルとなっている)。

なお、このリストには、後で述べるクラウドセールも含まれている。これをクラウドファンディングの一種とみなしてよいかどうかで、wikipediaで論争が起きた。

 その後、クラウドファンディングの一部は、フィンテックのソーシャルレンディングに発展していった。

 ファンドで資金を集めて、融資や出資の形で運用する。ここでは、事業継続資金が多く、技術開発やリスク挑戦という側面はかなり薄れてくる。とくに日本の場合には、不動産業者等に対する資金供給が多く、技術開発への資金提供という意味合いは薄い。

◆図表2:クラウドファンディングによる資金調達


(資料)Wikipedia
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技術開発のための新しい仕組み
クラウドセールとICO

 いま、技術開発のための新しい仕組みが発展している。これはクラウドセール(Crowdsale)と呼ばれるものだ。

 開発者が独自に発行する仮想通貨であるトークン(コイン)を売却し、プロジェクトの開発費を調達する。コインを渡すので、ICO(Initial Coin Offering)とも呼ばれている。支払いはビットコインによってなされる。

 クラウドセール参加者は、世界中から少額でも参加できる。

 トークンを購入することによってプロジェクトをサポートすると同時に、プロダクトへの事前アクセスや、利益配分の権利などが得られる。これまでの株式と似た利益だ。

 これまでの資金調達との違いは、企業に相当するものが、従来の株式会社でなく、DAOとかDappと言われる自律的組織であることだ。

 Ethereumというプラットフォームを使って、すでに200以上のDappsがつくられている(STATE OF THE DAPPS)。

自律的組織によるクラウドセール
予測市場のAugurなど

 自律的組織によるクラウドセールとして、つぎのようなものがある。

・分散型公証サービスのFactom
 Factomは、分散型公証サービスを提供する。ブロックチェーンを利用して、ドキュメントの存在証明、ドキュメントの更新プロセスの証明、ドキュメントの更新監査証明などを行なう。

Factomの中では、証明作業への手数料として、factoidという仮想通貨が用いられる。Factomは、これをクラウドセールした。2015年5月に終わったクラウドセールでは、2278BTCのビットコインを集めた。これは当時の価格で約6400万円に相当する。

・Ethereum
 Ethereumは、Dappを動かすプラットフォームだ。Etherはそこで用いられる仮想通貨である。

 EthereumはEtherのクラウドセールで、約16億円もの初期の開発費用を獲得した(図表2では約1800万ドルとされている)。

 重要なのは、クラウドセール後に、Etherが値上がりしたことだ。クラウドセール時より60倍まで高騰した結果、仮想通貨の時価総額ランキングで、ライトコイン、リップルを一気に抜き、2位となった。

 その後も高騰し続けており、現在の時価総額は1000億円を突破し、ビットコインの6分の1程度にまで迫っている。

・Augur
 Augurは予測市場だ。15年8月から10月の間にクラウドファンディングが行なわれ、520万ドル(5.2億円)相当の資金調達を行なった。

1.5億ドル相当を集めたが
ハッカー攻撃に遭って資金が流出

 クラウドセールの中で特筆すべきは、Slock.itによるものだ。その事業を説明して、Slock.itは、ホームページで、つぎのように言っている。

「Slockを使うことによって、使われていない自転車をリースに出して活用したり、パーキングプレースをオンデマンドで貸したり、Airbnbのアパートメントは全自動となります。未来のシェアリングエコノミーの基盤になります.」

 ドン・タプスコットは、著書Blockchain Revolutionの中で、bAirbnbというアイデアを述べている。これは、鍵や代金支払いなどの作業を、ブロックチェーンを用いて自動的に行なうというアイデアだ。こうなってこそ、Airbnbは使いやすい存在になると言っている。

 この本が出版されたのは2016年5月のことだが、そのためのサービスを現実に提供しようとする企業が、早くも現れたのである。

そして、トークンのクラウドセールで、16年4月に、ドル換算で1.5億ドルもの資金を集めた。これは、クラウドセール開始以降最高の資金調達額であるとして、大きな話題を呼んだ(クラウドファンディングを含めても、図表2のとおり、最高だ)。

 ところが、6月5日にハッカー攻撃に遭って、資金が流出してしまった。そこで、クラウドセールのプラットフォームとなっているEthereumのハードフォークが7月20日に行なわれた(「ハードフォーク」とは、ブロックチェーンの攻撃された部分以外を、ハッカーに攻撃される前のブロックに移行し、新たなブロックを生成する修復法。こうして、盗まれたことを記録しているチェーンを今後使用しないようにする。簡単に言えば、「攻撃がなかったことにしてしまう」こと)。

 金額は、元に戻された。

 この顛末は、Christoph Jentzsch, The History of the DAO and Lessons Learnedで報告されている。

 このような問題が起きたとはいえ、1.5億ドルもの資金を集められたことは重要だ。クラウドセールが、もはや無視することができない資金調達法になっていることを意味する。

株式会社時代からの決別?
ICOがIPOを代替する可能性

 ベンチャーキャピタルでスタートアップ企業の資金が賄われた場合、IPO以後は、伝統的な金融システムの中で資金調達が行なわれてきた。

 ここでは、証券会社、投資銀行、株式市場などの伝統的な仕組みが重要な役割を果たす。

 IPOは、投資銀行に莫大な収入をもたらす。また、その後の株式の取引は、証券会社に手数料収入をもたらす。


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 しかし、クラウドファンディングやクラウドセールになると、伝統的な金融の世界の外で資金調達が行なわれることになる。そこでは、証券会社、投資銀行、株式市場などの伝統的な機関の仲介はない。資金の需要者と提供者が直接に結びつくのだ。

 したがって、既存の金融機関にとっての収入がなくなってしまう可能性がある。

 すべてのIPOがなくなってしまうわけではないだろうが、戦略的に重要な部分、つまり新技術の開発によって急成長する新興企業については、ICOがIPOを代替するようになる可能性は高い。

 ナスダックは、未公開株の取引をブロックチェーンで行なう実証実験に成功した。日本の証券市場もこの動きをフォローしようとしている。これによって、株式取引の効率性が向上することが期待されている。

 しかし、株式そのものがなくなるかもしれないのである。

 なお、現時点では、クラウドセールの合法性には結論が出ていない。トークンは有価証券とみなされる可能性がある。すると、クラウドセールは未公開の株を配っているのと同じとみなされ、法的に罰せられる可能性もある。もし投資をするのであれば、自己責任で行なう必要がある。

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