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ソフトバンク孫氏とサウジ副皇太子の「電撃結婚」 1000億ドルの巨大ファンド、2つの世界を塗り替えられるか

 日本有数の富豪でテクノロジー投資家の孫正義氏が、軍資金不足のために野望の実現に待ったをかけられたことは、これが初めてではなかった。


 孫氏が経営するソフトバンクは先日、英国の半導体設計会社アーム・ホールディングスを320億ドルで買収するために多額の借り入れを行い、バランスシートを拡大させた。
だが、未来を見通す自分の能力を信じて次々に企業を買収している孫氏は、もっと投資をしたいと思っていた。

 では、人間と機械、そしてインターネットがもっと密につながった世界にするというビジョンを描いている孫氏は、その実現に必要な大金をどこから調達するつもりだったのか。

 その答えは先月、13機の飛行機とともにやってきた。
乗り込んでいたのはサウジアラビアからの派遣団500人あまり。その筆頭は改革派のムハンマド・ビン・サルマン・アル・サウド副皇太子、「MBS」というイニシャルで知られる人物である。

 孫氏にとって幸いなことに、副皇太子はサウジの包括的な近代化を目指す「ビジョン2030」という自らの肝いりプロジェクトの実行を急いでいた。

 その6週間後、2人はサウジの首都リヤドで会うことになった。総額1000億ドルという、この種のものとしては史上最大のプライベート・ファンドの設立計画をスタートさせるためだ。
計画が実現すれば、孫氏はテクノロジーの未来に投資できるようになり、サウジはその果実を得られる可能性が出てくる。

今のところは、ソフトバンクの子会社をロンドンに設立するという法的拘束力のない合意だけが文書になっているが、今後5年間でサウジは最大450億ドルを拠出するとしており、ソフトバンクは少なくとも250億ドル出資すると約束している。
さらに計300億ドルの投資を「少数の大型グローバル投資家」から募るという。


「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」と名付けられたこのファンドには、とりあえず、畏怖と懐疑という異なる反応が寄せられている。

「畏怖」の念が生じているのは、このファンドの規模が、米国のベンチャーキャピタル業界が過去30カ月間に集めた資金の総額に等しいからである。
「懐疑」が示されているのは、サウジとソフトバンクがこの前例のないプロジェクトへの出資と支援を本当に実行するつもりでいるのか疑問に思えるからだ。

 だが、疑問を少しほのめかすだけでも、この計画に近い筋からは疑問を打ち消す言葉が飛んでくる。
ある人物は「2人の男が金をばらまくという話ではない」と言い切った。
別の人物は次のように付け加えた。「2人は意気投合した。サウジ側は国内に技術を持ち込みたいと思っており、マサ(孫正義氏のこと)は世界最大のテクノロジープレーヤーになりたいと考えている」

 普通では考えにくいこの「結婚」は、ムハンマド副皇太子が9月初めに日本を公式訪問したときの出会いから始まった。
孫氏はその何カ月も前から画期的な資金調達方法を検討していた。
自分の野望の規模が大きいこと、そして公開市場の投資家にいらだちを覚えていたこと――自分の巨大かつ「クレイジーなアイデア」を彼らが理解するのにはかなり長い時間が必要だと孫氏は感じている――がその理由だった。

 実際、ソフトバンクがアームの買収を決めたときも、資産の一部を売却して買収資金を調達する必要があり、その分、手続きが遅くなっていた。
またこの取引により、ソフトバンクの純債務は1050億ドルという驚異的な額に膨れ上がっていた。

 この問題を解決すべく、孫氏はソフトバンクの幹部、ラジーブ・ミスラ氏に新たな資金提供者を探すよう協力を求めた。
ミスラ氏は元債券トレーダーで、2006年にはソフトバンクによるボーダフォン日本法人の買収という複雑な取引を手伝った経歴の持ち主だ。
新ファンドを率いることになる同氏は、ドイツ銀行時代に同僚だったニザール・アルバサム氏とダリンチ・アリバーヌ氏に声をかけ、パートナーになる可能性のある投資家に打診してくれないかと頼んだ。

 アルバサム氏とアリバーヌ氏は、サウジ政府の高官にも接触した。早速、サウジの一行の訪日中にソフトバンクとの会合が立て続けに行われることになった

 孫氏は副皇太子に会う前にまず側近たちと話をし、プレゼンテーションに磨きをかけた。
相手はサウジの公共投資ファンド(PIF)事務局長のヤシル・アル・ルマイヤーン氏、国営石油会社サウジアラムコの会長で影響力のあるエネルギー相でもあるハリド・アル・ファリハ氏、商業・投資相のマジド・ビン・アブドラ・アル・カサビー氏の3人だ。


 それぞれが投資の戦略について、そしてそれがサウジ経済の徹底改革と石油への依存度低下という政府の試みにどう適合するかについて、孫氏に詳しい説明を求めた。

 これに対して孫氏は、ソフトバンクはサウジの変身をこんな風に手伝えるという例をいくつか挙げただけでなく、自分自身の投資の実績と勝ち組――中国の電子商取引最大手のアリババ、モバイルゲーム開発会社のスーパーセル、ヤフージャパンなど――を選び抜く能力を売り込んだ。

 日本文化に強い関心を持つ副皇太子は、日本の天皇を表敬訪問し、日立製作所の会長や大手銀行のトップたちとの会談をこなした後、側近たちを伴って孫氏のプレゼンテーションを聞いた。
場所は東京の都心にある迎賓館だ。

 2人の会談は大成功だった。
副皇太子は孫氏に対し、サウジを訪問し、この国をよく理解できるようしばらく滞在することを要請して席を立った。
サウジの高官や側近たちは、ソフトバンクやその傘下の企業のデューディリジェンス(資産査定)を秘密裏に行うべく都内に散った。

 ある日本政府当局者によれば、孫氏はこの31歳の、合意形成によるゆっくりした統治に慣れた王国で若者らしい目的意識を持っているイメージのある副皇太子について、自分に似ている部分があると感じたようだ。
副皇太子の方も、「意志決定においてはスピードが非常に重要だと考えている」という。

 またこの政府当局者は、サウジは原油安による経済的変化にもかかわらず向こう数年間で投資を実行したいと考えており、孫氏が有するテクノロジー関連の起業家の人脈は、それとうまくかみ合うだろうと付け加えた。

中東問題の専門家である畑中美樹・国際開発センター顧問は次のように話している。
「サウジアラビアは将来的に投資を誘致していくために、決断力があって国際的にも名の通った誰かと、人目を引く大型の投資契約を締結する必要があった。日本でそれができるのは、ソフトバンクぐらいだ」


 孫氏は10月半ば、サウジアラビアの地に降り立った。
あちこちの油田を見学してからサウジアラムコを訪問し、同社のエンジニアリングやロボット工学の技術について説明を受けた。
ここでは特に、ソーラーパネルを清掃できるロボットにいたく感心していたとある人物は述べている。また、ソフトバンクとサウジとの間ではこれ以外にも、複数のパートナーシップが進行中だとも付け加えている。

 孫氏はサウジの政府系ファンドであるPIFも訪問し、その経営陣とも会見した。サウジ側の資金の出所はまだ明らかにされていないが、恐らくPIFの資金と、アラムコ株の上場で得られる資金とが投じられることになるだろう。
2018年に上場されれば史上最大の新規株式公開(IPO)となり、数百億ドルの資金が手に入ると予想されている。

 これは議論を呼ぶことになる話だが、サウジ通貨庁(SAMA)が現在管理している流動性のある証券や債券、外貨などの一部もこのプロジェクトに投じられることになるだろう。
サウジ政府に近いある銀行幹部によれば、PIFはSAMAの準備資産5620億ドルの大部分を取り込みつつある。そのため、ソフトバンクのテクノロジー・ファンドなどに資金を提供するPIFの能力は一段と高まることになるだろう。

 この訪問が終わる前に、それぞれに世界を作り替えようと急いでいる孫氏と副皇太子は取引を成立させ、強い絆を培った。もっとも、両者のビジネス上の関係と投資の今後の方向性は謎のままだ。

「マサは、買える資産はまだ十分残っていると考えている」。孫氏の近くでずっと働いてきたスタッフの1人はこう語る。「このファンドは、従来型のバイアウト・ファンドやベンチャー投資ファンドにはならない。チャンスを見抜く孫氏独特の投資になるだろう」

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