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原油価格競争の勝者と敗者 嵐をしのいだ米シェール業者、シェア拡大を手放しで喜べないOPEC

石油輸出国機構(OPEC)が原油の減産を決めたことで、2年に及ぶ価格競争の最大の勝者は米国のシェールオイル業界だと宣言する向きが多くなっている。


 井戸を数多く掘ってきたシェールオイルの採掘業者は、1バレル40ドルという嵐をしのぐためにコストを削減し、事業の整理統合を進めた。その結果、この業界は以前よりも贅肉が少なく立ち直りも早い体質になっており、原油価格の上昇につれて利益を得る公算が大きい。

 OPEC加盟国は非常に厳しい圧力にさらされている。このカルテル最大の産油国で、事実上のリーダーでもあるサウジアラビアも例外ではない。サウジ政府は、原油安の幅と期間が当初の予想をはるかに上回っており、値上げが必要なことを認めた。

 しかし、原油の値下げ戦争では、勝者と敗者がはっきり分かれることはない。OPECはこの2年間で市場シェアの大幅拡大に成功したが、それにはやはりコストがかかっている。

 では、相場が大きく変動したこの2年間は、大手産油国にとってプラスだったのか。それともマイナスだったのだろうか。

OPEC非加盟の産油国

 OPECは以前からずっと、米国のシェールオイル業界を打ちのめすことなどできないと認識していた。そこで、2010年から2015年にかけて市場への供給量を400万バレル以上増やしたこの業界の急成長を抑えることを目指した。

 全力で増産するというOPECの戦略は恐らく、狙い通りの効果を上げた。すなわち、米国に加えてブラジルの深海油田、カナダのタールサンド、北極の油田といった高コストなライバルを苦しめるという目論見だ。

米国のシェールオイル業界はまだ戦いに踏みとどまっているものの、予想生産量は2年前に比べ大幅に下方修正された。米国の原油生産量は、年当たりほぼ日量100万バレルのペースで成長するどころか、ピークだった日量960万バレルから約10%減少している。


 これと同時に、原油安は世界の需要を数年ぶりのハイペースで増やすことにも一役買っている。原油安が始まる前の需要の年間増加率は、日量100万バレルを大幅に下回っていたが、2015~16年にはほぼ日量300万バレルという高水準に達している。

 国際エネルギー機関(IEA)は2014年にまとめた中期報告書で、2017年のOPEC非加盟国による供給量の合計を日量5940万バレルと予測していたが、最新の報告書ではこれを日量5700万バレルにとどめている。

 差し引きすれば、2017年にはOPEC加盟国による生産量が、2年前のアナリスト予想を日量300万バレル以上上回る必要があると見込まれていることになる。

 同時に、従来型の原油開発プロジェクトへの投資は、停止同然の状態になっている。仮に原油価格が1バレル50ドルを上回る水準で安定することになったとしても、この投資はすぐには反転・増加しないだろう。

 コンサルティング会社ウッド・マッケンジーの調べによれば、2015年から2019年末にかけて行われる上流部門*1の資産開発に備えて取り分けられた資金の総額は、原油価格の急落以降、7400億ドル減少したという。

「OPECは、需要を損なうことなく、原油価格をできるだけ高くしたいと思っている」。米コロンビア大学世界エネルギー政策センターのジェイミー・ウエブスター氏はこう指摘する。「それがOPECが2年前に望んだことであり、現在も望んでいることだ」

*1=原油の探鉱、開発、生産までの段階のこと。アップストリームともいう。

OPEC加盟国

 OPECの市場シェアが拡大したため、生産量と平均価格から計算したOPECの生産額の減少率は米国のシェールオイル業界よりも小さくなっている。

 原油価格が1バレル100ドルを割り込んだ2014年9月以降で計算すると、米国の生産業者が受け取る可能性があった収入は約55%減少した。生産量が減り、指標とされるウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)の価格も下がったためだ。

これに対し、OPECのそれは48%の減少にとどまっている。価格下落の影響を生産量の増加が一部相殺しているためだ。OPECの総生産量は米国の3倍以上に達することから、両者の打撃の間には明らかな違いがある。


 今年9月のOPECの生産量――その大部分は輸出収入をもたらす――の価値は、2014年9月の実績を約430億ドル下回った。同じ比較を米国について行うと、140億ドル下回っていることが分かる。このインパクトは、米政府の予算ではなく株主や小規模な掘削会社に主に及んでいる。

「原油の販売量は増えているが、価格が下がっているから予算の基準を達成できていない――最終的にはそこが問題になる」。コンサルティング会社ペトロマトリックスのアナリスト、オリビエ・ヤコブ氏はそう語る。「ほとんどのOPEC諸国にとって、状況は依然かなり厳しい」

戦略的な提携関係

 市場シェアをめぐる争いは、産油国と買い手の間に新たな提携関係を生み出している。米国については、原油安が40年ぶりの原油輸出解禁を加速させたと見て間違いない。これにより米国は、1970年代にアラブ産の石油が輸出禁止になる前以来の大きな規模で、アジアや欧州の顧客に原油を輸出できるようになっている。

 米国の連邦議会の議員たちは、エネルギーの供給を増やすことにより最終的には政治的同盟関係を強化できるのではないかと期待している。いずれはロシアのエネルギー供給に対する欧州の依存度も軽減できればよい、とも考えている。

 OPECにおいては、市場シェアをめぐる争いが新旧の市場開拓に加え、加盟国と一部の大口顧客とのつながりを強化させることにつながった。例えば、サウジの国営石油会社は中国、インド、ベトナムに石油精製所を建設することになっている。

 欧州の北西地域への輸出量も増やした。通常はロシアから石油を買っていると考えられているポーランドやそのほかの国・地域の顧客がターゲットだ。

 これを受けてロシアは、旧ソ連解体後では最高の水準まで生産を増やし、中国への輸出を増やしている。

 ロシアの国営石油大手ロスネフチは先日、インドにある石油精製所を買収した。石油需要が最も急速に拡大している地域の1つに足がかりを確保するためだ。


 ナイジェリアやアンゴラといったアフリカの産油国は、シェールオイルの生産量急増により米国市場で買い手を失ってしまっていたが、なんとか再参入を果たしている。米国への現在の輸出量は合計で日量30万バレル。2015年の年初からほぼ3倍に増えた計算だ。

「どの国と提携関係を結べばよいのか、原油安のせいで産油国は注意深く考えざるを得なくなっている」。コンサルタント会社エナジー・アスペクツのリチャード・マリンソン氏はこう述べている。

再生可能エネルギー

 恐らく、OPECが直面している最大の戦いは、再生可能エネルギー源とのそれだろう。数十年後には石油需要の抑制要因になると見られているからだ。原油安が始まってからで見ても、石油以外の技術への投資を減らすことにOPECは部分的にしか成功していない。

 電気自動車や再生可能エネルギーの進歩を失速させることは、ほとんどできていない。後者については今年、世界全体の発電容量に占める再生可能エネルギーの割合が石炭を抜いてトップに立っている。

 世界全体で見ると、2020年までには道路を走行する電気自動車の数が2014年、つまり原油価格が下落し始めた年の実績の5倍になると予想されている。また、多くのアナリストは、石油の需要は今後20年以内にピークを越えると考えている。

「石油は明らかに、輸送の分野での特異な競争力を失うリスクをまだ抱えている」。スウェーデンの大手銀行SEBに籍を置くビヤーナ・シェルドロップ氏(ノルウェー在勤)はそう語る。

 この戦いは、石油業界では誰一人勝利を収められない長期戦になるのかもしれない。

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