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トランプ政策、中心は強いドルと国境税の組み合わせか

11日のトランプ次期米大統領の記者会見に世界の市場関係者は失望した。最も知りたかったマクロ経済政策の全貌が不明のままだったからだ。

これまでの発言から、あえてその全体像を描けば、「強い米国」と「強いドル」を標ぼうし、世界から米国にマネーを吸い寄せ、インフラ投資などに投入する一方、ドル高の弊害は「国境税」(ボーダータックス)で遮断するというポリシーミックスだ。

『前代未聞』のこの政策が果たして継続できるのか、今のところ全くわからない。しかし、当面は日本に円安と日本株高をもたらし、新しい「何か」をするための「時間」を与えてくれるだろう。この時間を無駄にせず、政府と民間は一丸となって、潜在成長率・ゼロ%からの脱出を図るべきだ。

<会見で明らかにしなかった強いドルとその効果>

マーケットには、トランプ氏の保護主義的な発言を懸念し、ドル安/円高になるとの見方が根強くある。

確かに国境税のところだけを取り出してみれば、円高材料にみえるだろう。しかし、トランプノミクスの本質は、この会見で言及しなかったところにあると考える。

トランプ氏が米大統領選で訴えてきたのは、大幅な減税、インフラ投資、規制緩和、医療保険制度改革(オバマケア)の撤廃など。特に市場が注目してきたのは、減税とインフラ投資、規制緩和の部分だ。

米の昨年12月の失業率は4.7%、時間当たり平均賃金の伸び率は前月比2.9%増と7年半ぶりの高水準となっている。

労働需給がタイトな中で、大幅な財政出動が展開されれば、米長期金利と期待インフレ率は上昇。これがドル高のエンジンとなり、同時に財政出動の効果で名目国内総生産(GDP)は跳ね上がり、米株高の要因にもなる。

こうしてマネーは、米国に向かって流入し続ける構図ができる。集まったマネーを国内のインフラ投資に振り向ければ、米政府は自らの財政資金を100%投入しなくても、海外からの資金でインフラを更新。関連したビジネスで雇用が生まれ、不満が蓄積していた中間層をなだめることが可能になる。

<ドル高の弊害遮断する国境税>

ただ、ドル高は米製造業の競争力を削ぐ効果も持つ。11日の会見でトランプ氏が貿易赤字に言及したため、ドル高懸念の発言が出るのではないかとの観測が市場では根強くある。

しかし、それは国境税などの存在を否定した「自由貿易主義」が前提の話ではないか。国境税で安い輸入品を遮断すれば、ドル高の弊害を少なくとも米国内に持ち込むことを防げる。

また、国境税は米国内での輸入品価格を押し上げる要因になるが、ドル高効果でそれをある程度、相殺することも可能だ。

つまり、強いドル政策と国境税の組み合わせは、短期的に米国に「富」を生み出す構図を造り出す。

<アメリカ・ファーストの影>

だが、それは典型的な近隣窮乏化の政策とも言えるだろう。すでに一部の新興国では、通貨と株価の下落が継続。景気後退のリスクを承知で金利引き上げに踏み切っている例もある。特に非資源国では、このスパイラルを止める手立てが見つからない。

そのうえ最大の市場である米国が、国境税で輸出障害の「壁」を造れば、通貨安のメリットを生かす場も失われる。

「アメリカ・ファースト」の政策が、アメリカだけ繁栄する政策になりかねないリスクを内包していると言える。

果たして、私の想定通りにトランプノミクスが展開されるのか、今の段階でははっきりしない。しかし、その兆候は確かにあると指摘したい。

<日本に与えられた猶予期間>

日本にとって最大の関心事の1つである為替は、米国のマクロ政策が大きな方向性を決めるため、ドル高/円安が次第に進むと予想する。保護主義への懸念で円高方向に振れる局面があっても、大きなトレンドを形成するのは難しいと考える。

円安が進めば、株高も同時に進行するのではないか。日本政府がさしたる努力をしないまま、円安・株高を享受できる構図が完成することになるだろう。

ただ、この「絶好機」を無為に過ごしては、「悔いを千載に残す」ことになりかねない。今の日本経済は、潜在成長率が0.1%台まで低下し、少子高齢化の基調にも変化がない。生産労働人口の減少基調が変わらないまま、生産性の伸びが高まらなければ、長期的に経済規模の縮小に直面するリスクが高まる。

AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)への投資では、日本企業は米、独などに大きく水をあけられている。「リスク」ばかりを言い訳にしていては、次の大きなショック発生時に本当の意味での「老成国」になってしまうだろう。

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