世界の投資関連ニュースを独自視点でお伝えしています。

円高ドル安へ…今年の主要通貨の動きを予想する

2017.01.18

筆者の専門の一つに「通貨」がある。通貨・国際金融の教科書『通貨経済学入門』を日経新聞社から出版し、実際に慶應大学等の講義の教科書として使用している。改定も行い、今回の版も3刷となって、有難いことに好評を博している。

 為替相場について書いた原稿も、昨年10月5日公開の『為替相場は今後「円安ドル高」傾向と予想する理由』では年末までの円安ドル高相場を予想。同じく11月2日『人民元の下落は当面続くと考える理由』では、最近の「人民安」を予想した。本稿や宿輪ゼミにおける分析については、その後、当局や金融機関から内容についての照会を多数受けた。そこで今回は、今年当面の主要通貨の動きを予想してみたい。

ドル円は円高ドル安へ

 昨年後半はトランプが大統領選において当選し、基本となる経済政策「トランプノミクス」を発表、景気刺激的な内容によって米国の株式やドルが買われる「トランプ相場(トランプラリー)」となった(トランプノミクスについては本連載『2017年の世界経済はこの「4大課題」に左右される』参照)。

 この景気刺激的な財政政策は同じ共和党のレーガン大統領のレーガノミクスを彷彿とさせ、当時と同様にドル高・高金利が予想されている。国債の発行が増加することもあり、国債の金利(10年物)が上昇するも、現在は2.5%程度で一服している。次期の財務長官は金融機関(ゴールドマン・サックス)出身のスティーヴン・マヌーチン(Steven Mnuchin、ロシア系ユダヤ人)である。すでに「ドル高」の方針の発言をしているし、今までの金融機関出身の財務長官(ルービンやポールソン)と同様に「ドル高」が基本姿勢であると予想される。金利上昇と相まって、年末までドル高が進行した。

 今後もトランプノミクスに対する期待は高いが、相場は円高ドル安に転換することが予想される。一言でいえばトランプノミクスは、実現段階に入る今後は“縮小せざるを得ない”からである。風呂敷をこれ以上広げられないのである。しかも、トランプの米国第一主義が貿易縮小をもたらす可能性もあり、またドル高自体が米国経済に悪影響を与える可能性も注目され始めた。さらに、昨年末までのドル円相場や株式の動きは、ミニバブルの様相も呈していた。米国株価と為替は暴落とまではいかないが、下落せざるを得ないのではないか。

 ちなみに過去、西暦の一桁が“7年”の年は金融危機が起こってきた。1987年ブラックマンデー、1997年アジア通貨危機、2007年サブプライム危機(翌年リーマンショック)となっている。10年ひと昔とはよく言ったが、バブルの経験も10年もすれば、代も変わり、忘却されてしまうということか。

今年の欧州経済を見るときのポイントは「政治リスク」である(トランプも政治リスクともいえる)。英国のEU離脱の国民投票、12月のイタリアの憲法改正の投票に見られるように、移民問題を主として、中流以下の市民が変化を求めている。

 今年も3月オランダ総選挙、5月フランス大統領選挙、秋にはドイツの総選挙が実施され、さらに先の投票を受け、イタリアでも年内に総選挙が行われると考えている。このような中で、今後はさらにユーロ安が進行すると考えている。

 通貨の表示には順位がある。日本円の対ドル相場なら、通常は1ドル=〇円、といった形で、基軸通貨のドルを先に表記する。ドルより上位は過去の基軸通貨であったポンドが強く、1ポンド=〇ドルといった表示になる。ユーロはポンドよりも強く、すべての通貨に対し、1ユーロ=〇という表示形式をとる。

 そのユーロであるが、2007年あたりは1ユーロ=1.5ドルで取引されていたが、現在は下落を続けている。為替の世界にはパリティ(Parity)という言葉がある。そもそもは、均衡・平衡という意味であるが、要は1ユーロ=1ドルということである。

 為替の市場では目標が見えると、そこを““狙いたくなる性質””を持っている。欧州の政治リスクが縮小することも考えられず、当面は1ユーロ=1ドルを目指して下落を続けよう。

 英国ポンドもEU離脱問題で、31年ぶりの最安値を更新するなど下落が続いている。31年前とはサッチャー登場前の「英国病」の時である。EU離脱が現実のものとなりつつなる動きとともに英国ポンドは下落を続けよう。しかし、ポンド安のお陰で、英国の輸出と観光が好調で、英国株価は史上最高値を更新した。

人民元は安定へ

 最近の中国人民元の運営は明らかにトランプを意識している。10月1日にIMFの通貨SDRに採用されるまでは安定させていたが、決定後は意図的に下落させている。2008年9月のリーマンショック以降、緊急対応で固定した6.82~6.83元のレベルもあっさりと割った動きは明らかにそのためだ。

 トランプは大統領就任以前から中国を為替操作国と名指しし、制裁を加えようとしている。しかし1月20日の大統領就任前は何もできない。中国の経済成長率も落ちてきており、20日までに人民元を下落させ、輸出を振興させ、過剰な在庫を減らしたいのであろう。ということは20日の就任が近づくのにつれ、されに安定させることが予想される。

新興国通貨は基本的には、米ドルに資金が向かい「ミニ通貨危機」状態になっている。特に最もトランプノミクスで影響を受けたのはメキシコである。新興国であるということと、トランプが見直しを計画中のNAFTA(北米自由貿易協定)の参加国で、景気悪化が予想され、メキシコペソは暴落し、史上最安値を更新している。通貨当局はもちろん為替介入をするも、下落を止めることはできず、景気が悪いにもかかわらず金利を引き上げるという苦渋の決断をした。

 一方、トランプノミクスにある規制緩和項目により、シェールオイルの増産が見込まれている。そのような背景があるため、OPECとロシアは歴史的な減産合意に至り、原油価格もWTIで55ドル近辺まで上昇している。

 実は、原油価格の動きは他の資源価格とほぼ連動している。そのため、新興国の中でも資源国の通貨は持ち直しの様相を呈している。一方、資源国でない新興国、とくにトルコなどの政治リスクがある国の通貨は、下落せざるを得ない。しかし、東南アジア(ASEAN)の国々はそもそも外貨準備も潤沢であり(除くマレーシア)、アジア通貨危機の時に構築した資金貸借網(チェンマイ・イニティアティブ:CMI)があるため、下落には耐えられるであろう。

関連記事

アーカイブ