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発覚!おぞましい「ブラック保育園」の実態 「保育園不足」に悩む自治体も事実もみ消し?

2017.03.07

神奈川県にある認可保育園の園長だったみつこさん(仮名)は2016年、同保育園の運営会社を訴えた。みつこさんは2015年春にA社から採用され、園長として園の立ち上げから勤務していた。そのわずか1年後の提訴。いったい、何があったのか。

現在60代のみつこさんは、保育経歴15年以上のベテランだ。民間の認可保育園長や児童発達支援施設の管理者を務めた経験がある。さらに、公立の障がい者施設、老人介護施設でも働き、福祉に関わり40年の人生である。

みつこさんは小規模保育園が対象とする0~2歳児の子どもたちについて話す。「この年頃の子にはスキンシップが一番です。叱ることなんてありませんよ」「あふれるほど愛情を注げば、あふれた分、大人になったとき、その子は人に愛情を注げる人になる。それが私の保育理念です」。

保育園の園長になってから約半年後に適応障害

こうして半世紀弱のあいだ社会福祉に人生をささげてきたみつこさんだが、園長として働き出してから約半年後の2015年10月に適応障害の診断を受けた。原因の1つは、A社での園長業務の中で毎月80~90時間にもおよぶ残業を続けたことにある。月80時間以上の残業は「過労死ライン」と呼ばれる。この状況で過労死が起これば、因果関係を認められる基準だ。

そもそも、みつこさんの園には必要な保育士の人数がそろっていなかった。驚くべきことに、A社は他県の系列園で働く保育士を、みつこさんの園の職員に仕立てあげて自治体に届け出ていた。こうすることで、実際にはそこで働いていない人の人件費が、A社に補助金として入る。

ただ、実際に職員は配置されていないために、現場では慢性的な人手不足が続いた。みつこさんは、園長としてどうにか現場を回すために一日中働いた。早番と遅番の保育業務を担当しながら、昼の時間帯に園長業務をこなす。残業だけでは間に合わず、持ち帰った仕事もある。

みつこさんに、さらなる苦難が襲いかかる。きっかけは、就職後まもない2015年4月末ごろ、みつこさんのもとに、市内にある系列の大規模園の職員から「園児への虐待が疑われる職員がいる」という相談が寄せられたことだった。

さらに、5月のはじめには、地元住民からみつこさんの園への通報があった。

同じ市内にあるA社系列の保育園で、女性保育士が、園児に対して虐待ともとれる行為をしていたというのだ。

その住民の話によると、近隣の公園で課外活動をしていた際、園児の1人が泣き出したが、付き添いの保育士が「そこでずっと泣いていなさい」と泣かせ続けたのだという。

同じ保育士はほかにも問題行動を起こしていた。「グーチョキパーで何作ろう」という手遊び歌があるが、その保育士は「グーとグーでパンチ!」と園児を叩いていたというのだ。そして園児がよろけると、ふざけた様子で「よろけてるー、お母さんには見せられないけれどねえ」と笑ったという。

その様子を見て「あれはなんだ?」と思った住民は、保育士のポロシャツに書かれた社名とマークを頼りに、みつこさんの保育園と区役所に問い合わせた。

昼寝できぬ子に「動いちゃだめ!」と脅し

さらに、お昼寝の際、寝られない子はおんぶなどして他の子を起こさないようにするのが一般的だが、この保育士は「動いちゃだめ!」と子どもを脅すことで静かにさせていたという。

こうした事実を把握したみつこさんは、大規模園の職員たちとすぐさま市の保育課に通告。翌週に査察が入った。

だが、A社はこうした虐待の事実を揉み消そうとした。この大規模園にはウェブカメラが設置されており、市はA社に対してそのデータを確認して報告するように指導。すると、A社本部は「音声がなく、映像だけなので虐待かどうかわからなかった」と報告(2017年2月7日のみつこさん側の裁判資料による)。結果、市はA社の報告を聞いただけで虐待はなかったと判断した(のちほど、業者がカメラの状態を確認したところ、スイッチすら入っていなかったことが判明した )。

A社内で、虐待問題が正面から取り上げられることはなく、それまでみつこさんに相談していた大規模園の職員らもしだいに口をつぐむようになった。保育士の架空登録の問題も、みつこさんらが引き続き市に相談したことで露呈したが、過払いの人件費を返還するだけで手打ちとなった。

そして、大規模園での虐待を通告したみつこさんは、A社本部からも、大規模園の園長からも目をつけられることになった。大規模園の園長からは、園長会や電話口で一方的に怒鳴られることが何度もあり、挨拶をしても無視された。

長時間の残業もあり、みつこさんはストレスで体調を崩していった。固形物を一切食べられなくなり、体重が激減。結果、2015年10月には医師から「適応障害」と診断された。A社本部に診断書を送ったが、会社側は十分に取り合ってくれなかった。

このような状態にあってもなお、みつこさんは自分が抜けると小規模園が立ち行かなくなると思って仕事を休まなかった。翌11月、医師が2回目の診断書に「大規模園の園長とは、別の人がやり取りをするように」と書いてようやく、他の保育士に対応が交代され、少しずつ体調は回復していった。12月には、A社の社長から「来年もよろしく」と声をかけられ、状況はいい方向に向かっているように見えた。

ところが、2015年も終わろうとするころ、みつこさんはA社から翌3月で退職するようにと言われた。たしかに、採用時の雇用契約は、最大5年まで1年ごとに更新があるというものだ。ただ、A社側はみつこさんに、よほどのことがない限り契約の途中解除はないと伝えていたため、みつこさんは「次年度、更新なし」の決定に大きなショックを受けた。

保護者たちも驚き、本社あてに抗議の電話やファクスを送って“園長を辞めさせないで”と署名活動も行われた。しかし、A社の決定が覆ることはなかった。

「無難なあいさつをしないと、おかしなことになるぞ」

3月、みつこさんにとって最後の保護者説明会が開かれた。説明会前、保護者からは「辞めないで」と泣かれ、社長につめよる保護者の姿もあった。だが、みつこさんは結局、会を欠席することになった。保護者説明会の直前、A社の本部職員から「保護者に無難なあいさつをしないと、おかしなことになるぞ!」と怒鳴られた。動悸が激しくなり、血圧が200以上に急上昇。顔面蒼白になって、たまらず病院に行くことになった。

園を辞めさせられてから、みつこさんは地元の労働組合を通して、団体交渉を行った。平日の夕方にもかかわらず、保護者も子連れで参加して味方をしてくれた。しかしA社の対応はかたくなだった。みつこさんが適応障害のために大規模園の園長に会うことができず、園長会にも出席できなかったこと。これらを理由に「園長の資格がない」と判断したと主張し続けたのだ。

みつこさんは解雇無効の提訴に踏み切り、現在も裁判が行われている。そして実は、みつこさんが契約解除をされた2016年3月には、虐待をしていた保育士と大規模園の園長も退職しているという。

A社に関する取材を進めていくと、さらに驚くべき実態が明らかになった。A社が運営する保育園は大小合わせて10カ所以上あるが、その半数近くで園長が2年以内に辞めているのだ。A社を辞めた園長の1人は、「正義感が強く、本部に意見するような園長たちほど、解雇あるいは自主退職に追い込まれている状況がある」と言う。

さらに、「名ばかり園長」もまかり通っていた。東京23区の場合、認可保育園の園長になるうえでは、認可園での勤務経験1年以上が条件となるが、A社は認可園の経験がまさに1年程度の保育士を園長にすることもあった。もともと園長にするつもりの人が経験不足だったとして、他園の園長にするつもりだった人を園長に据えたが、1年経つと「別の人を園長にするから」と降格人事がされた場合もあった。中には怒って辞めた園長もいたという。

自主的に辞めた園長も、会社の都合で退職を強いられた園長もいるが、いずれも退職金は支払われていないようだ。園長が辞めるぐらいだから、保育士はもっと辞めている。毎月誰かが退職し、毎月別の人が採用されるような激しい入れ替わりが起こっている。

だが、保育士たちが相手にしているのは子どもたちだ。パート保育士が各園にヘルプでまわされることも頻繁にあったが、コンビニのように「隣の店からちょっと手伝いに来た」と保育に入られても、子どもたちはついていかない。1歳児など、人見知りの激しい時期だと、大泣きされて逆に大変になることも珍しくはない。

さらに、A社を退職したある保育士の話によると、みつこさんの園以外でも職員の架空登録と補助金の不正受給は行われていた。自治体の監査があるときだけ、周辺の園から保育士がかき集められ、偽装したシフト表も作られていた。

「待機児童ゼロ」目指す自治体は、強く出られない

保育園の監督責任は自治体(市区町村)にあるが、特に待機児童ゼロを目標とする自治体は事業者に甘い。A社系列の保育園が認可園化されるにあたって、目黒区の「文教・子ども委員会」の議事録(2016年10月12日)には、A社の問題をめぐる区議と保育課担当者とのやり取りが記されている。

区議が「不当解雇の問題を見ていくと、要は不正受給、架空保育士の問題が出てきているが、目黒区で今回認可する保育園では、そうした架空保育士の問題はないんでしょうね」と念押しするが、保育課担当者は「そういった問題はない」という返答を繰り返している。ただ、実際にはこの小規模園でも実際にいない保育士の登録があったことが確認されている。

自治体には園を簡単に営業停止にはできない理由がある。保育の受け皿が突然なくなると、しわ寄せは園児や保護者にいくためだ。どうしても園の職員が足りない場合など、やむを得ず自治体職員が「見守り」として保育に入らざるを得ないこともある。

こうした事情が運営会社を増長させるのは言うまでもない。「ここまでなら自治体から補助が得られる」と、悪質な事業者が自治体の足元を見て次々と参入しているのだ。

A社も拡大路線の事業者の1つであり、保育士の採用が間に合わないにもかかわらず、次々と新規保育所をオープンさせている。

A社の元保育士は次のように語る。「公立の園でも、民間の園でも子どもの命を預かっているのは同じです。それなのに、公立の園だと1歳児4人に保育士1人など、手厚い配置になることがある。民間だと1歳児6人に保育士1人と、『最低基準』のままです。子どもがウンチしていてもオムツを替えられなくて『ちょっと待ってて』と言わなくてはいけない。切ないです。将来の日本を背負っていく0歳・1歳の子どもたちが、人として大切に扱われていないのはおかしい」と訴える。

「自治体が認可している園なのだから、ちゃんと園に入って実態を確認するべきです。そうしないとA社はギリギリのところをすり抜けながら、これからも園を拡大していくと思います」。

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