世界の投資関連ニュースを独自視点でお伝えしています。

上場なら時価総額は世界最大 サウジ国営石油の誘致なるか 東証の並々ならぬ意欲

東京証券取引所を傘下に持つ日本取引所グループ(JPX)が、2018年と見込まれているサウジアラビアの国営石油企業「サウジアラムコ」の新規株式公開(IPO)で東証への上場誘致に取り組んでいる。時価総額は2兆ドル(約220兆円)超との観測も一部にあるほどで、現在世界最大の米アップル(4月3日終値で約84兆円)の3倍近くだ。欧米やアジアの取引所も取り沙汰される中、JPXはトップ自らがキーマンとの面会を見通せない中でサウジに乗り込むほど前のめりの姿勢だが、果たしてその努力は報われるのか。

 アポ不確定…でもサウジに飛んだCEO

 サウジ国王としては46年ぶりとなる来日に沸いていた3月14日。東京・日本橋兜町の東証で、JPXの清田瞭(あきら)最高経営責任者(CEO)と、サウジ証券取引所のハーリド・アブドゥッラー・アール・ハサンCEOが包括的な協力協定へのサインに臨んだ。金融商品の開発、双方の取引所での株式重複上場、市場調査や宣伝活動、金融経済教育など幅広い分野で協力を探るという内容だ。

 あいさつで清田CEOは、サウジアラムコについて一切言及しなかった。それでも今回の協力協定を、同社の東証への上場誘致の手かがりにしたいとの思惑が透けてみえる。

 実際、JPXはサウジアラムコの東証への上場誘致に並々ならぬ意欲をみせている。サウジ証取と協力協定を結ぶ約3カ月前の昨年12月下旬、清田CEOはサウジの首都リヤドを訪れていた。サルマン国王の息子でサウジの軍事や経済で強い権限を持つムハンマド・ビン・サルマン副皇太子らに直接、サウジアラムコの東証への上場を訴えるためだった。

「会えるか会えないか分からない」(清田CEO)という不確かな状況でもあえて現地に乗り込み、長時間待った結果、ムハンマド副皇太子らキーマンに面会できた。清田CEOは「東証は上場会社時価総額で世界3位。サウジアラムコのような巨大企業は一定以上のマーケット規模のあるところに上場すべきです。東証は個人投資家からの大きな投資意欲も期待できます」と口説いた。

 政府もJPXの誘致活動を全面的に支援。安倍晋三首相とサルマン国王の会談を受けて3月13日に発表された合意文書「日・サウジ・ビジョン2030」では、サウジアラムコの東証への上場に向けた協力も盛り込まれた。

 最有力はニューヨーク? ロンドンなども

 サウジは15年末推定で世界2位の原油の確認埋蔵量があるとされ、国内の石油開発はサウジアラムコが独占している。ただ、経済の大半を石油に依存してきたため、ここ数年の原油価格の低迷に背中を押される形で、石油に依存した構造からの脱却を図ろうと取り組みを進めている。サウジアラムコのIPOで巨額の資金を調達することもその一環だ。

 ムハンマド副皇太子はかつて、サウジアラムコのIPOが実現すれば、時価総額は2兆ドル(約220兆円)を超えるとの見通しを示したことがある。市場関係者の間でサウジアラムコの時価総額をめぐっては多くの見方があるが、いずれにしても世界最大規模のIPOとなる公算だ。IPOは18年を計画しており、株式売却の規模は全体の5%未満とみられ、これが本国のサウジを含む世界の複数の取引所で売買されることになるとみられる。

 超巨大IPOだけに、関心を示すのは東証だけではない。世界の有力な取引所がサウジアラムコの上場誘致に動いている。サウジ国外での上場先としてこれまで取り沙汰されたのは、ニューヨークやロンドン、カナダ・トロント、シンガポール、香港の取引所だ。

 今のところ最も有力とみられているのはニューヨークのようだ。米紙ウォールストリート・ジャーナルは2月下旬、サウジ側はニューヨークに傾きつつあるが、一方でロンドンやトロントも検討しているなどと報じた。

JPXの思いは通じるのか。東証幹部は、これまでのサウジ側との接触を踏まえ、「決して門前払いされているわけではないが、かといって『いらっしゃい』というわけでもない。今のところは上場先の候補として残っているという感触だ」と慎重な言い回しだ。

 外国会社の東証上場は減少…挽回なるか

 証券取引の場として世界最大のニューヨークは上場先として外せないとしても、ロンドンは実は取引高や上場会社時価総額で東証よりも規模が小さい。また、トロントはニューヨークと同じ北米東部にあり、取引時間帯がかぶる。東証内からは「アジアの取引時間帯に上場先が1つあっていいはずだ」と、東証への上場誘致に期待を寄せる声が上がる。

 一方、東証に上場する外国会社の数は現在6社と寂しい限りだ。ピークの1991年には127社を数えたが、バブル崩壊や90年代後半の金融危機、長期の景気低迷で東京株式市場の魅力が相対的に低下したことで減り続け、2015年にはついに1桁に転落。米金融大手シティグループも昨年、上場廃止となった。

 さらに今年3月23日には、東証1部上場の米バンク・オブ・アメリカ・コーポレーションが東証に上場廃止を申請。5月1日に正式に上場廃止となる。取引量が少ない上、上場をやめた方がコスト削減につながるという意味合いもあったようだ。バンカメが抜ければ、東証上場の外国会社はともに米保険大手のAIGやアフラックなど5社に落ち込む。

 ただでさえ、取引所は国境を越えた合従連衡が進むなど競争が激化している。そうした中で、世界的に注目度の高いサウジアラムコの上場誘致に成功すれば、東証にとっては取引所としての国際的な地位向上につながり、世界から投資家を呼び込む追い風になる。

 上場先は、今年半ばにも決まるとみられている。JPXにとっては、気の休まらない時期が続く。(経済本部 森田晶宏)

■日本取引所グループ 長年ライバル関係にあった東京証券取引所グループと大阪証券取引所が経営統合し、その持ち株会社として2013年1月に発足した。略称は「JPX」。傘下には、国内の現物株の取引をほぼ独占する東証と、株価指数先物などのデリバティブ(金融派生商品)を取り扱っている大阪取引所などがある。世界の取引所の中で、東証は上場会社時価総額で3位にあたる。

■サウジアラムコ サウジアラビアの国営石油企業。サウジは世界でも指折りの原油埋蔵量や生産量があり、同国のすべての石油関連施設を管理しているのがサウジアラムコとみられる。近年の原油価格の下落で大幅な財政赤字に苦しむサウジは、サウジアラムコの株式を上場することで巨額の売却代金を獲得し、石油依存からの脱却を目指すための投資などを進める狙いがあるとみられている。

関連記事

アーカイブ