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「6回目のジンクス」に向かう世界経済

2017.04.19

金融市場に40年近く従事してきた実務家として、日米欧の政策金利の引き上げの連動について「5回のジンクス」議論を過去10年以上にわたって行ってきた。米国がまず動き、欧州が続いて、日本は最後になり、日本銀行が利上げした翌年は、世界経済が同時に減速する――など、5点の共通現象がある。(みずほ総合研究所 チーフエコノミスト/高田 創)

利上げ、日本はいつも最後
翌年、世界経済は同時減速

 いまの局面で、日本の超金融緩和からの「出口」を展望するのはまだまだ先の話だろう。ただし、既に常に先頭ランナーであった米国が利上げで動き出したなか、二番手として欧州中央銀行(ECB)が動くかどうかが鍵になる。過去40年の金融市場の経験則は、欧州の動きが日本の前触れになっていただけに、仮にECBが出口に向かうと日本の出口に向けた観測が急に浮上しやすいことに市場参加者は十分に留意する必要がある。

◆「5回のジンクス」70年代以降の日米欧の政策連動

(1)1970年代以降、日米欧の中央銀行の政策金利引き上げサイクルは一致
(2)以上の連動サイクルで日銀は日米欧の中央銀行で常に最後の利上げ
(3)日銀の利上げの翌年は全て世界同時減速
(4)同時に、世界的な金融市場の変動が生じ、新興国問題も生じる
(5)以上の5局面はすべて原油価格の高騰期と一致

70年代以降、繰り返されてきた
「5回のジンクス」の歴史

 実際、過去の政策金利引き上げの局面を見れば、70年代以降、「5回のジンクス」が成り立っていたことがわかる(図表1)。舞台を、2000年代半ばに実現した5回目を振り返れば、まず2004年に米国準備制度理事会(FRB)が利上げを行い、次いで、2005年にECBが利上げを行い、最後に2006年に日銀が利上げを行った。その順序もそれまでの4回と同じく日本は日米欧のなかで最後だった。2007年にはサブプライム問題とした世界的な経済の同時減速が生じ、翌年のリーマンショックも含め世界的な金融市場の激震となった。しかも、2007年から2008年にかけて未曾有の原油価格の高騰も生じた。

 2000年代は米国のサブプライムローンによる住宅ブームと欧州のユーロ統合ブームに伴う投資拡大が生じたことで、金融による信用の膨張が従来になく大規模であった分、その後の調整も戦後最大規模、未曾有なものになった。その結果、以上、5回目のジンクスのどの項目も当てはまる完全成立となった。当時、日本は、1990年台以降のバブル崩壊後のバランスシート調整に漸く目処をつけつつあったものの、欧米の調整の大波に洗われ、再び深刻な悲観に陥ってしまった。

◆図表1:金融市場の「5回のジンクス」と6回目の展望


米国の利上げで
新たな連動局面に突入

 こうした政策金利の連動は、1970年代に為替が変動相場制に移行し、日米欧の金融市場連動が強まったことや、世界経済全体のファンダメンタル(基礎的条件)がお互いが影響しやすくなるシンクロナイゼイションが生じたことが背景にある。そうした中で、為替や金融市場、実体経済を安定させるための制度的インフラとしてG7等での先進国中心の政策協調があった。

 今回の局面では、既に2015年12月から米国の利上げが始まっており、「6回目のジンクス」のサイクルに入ったといえそうだ。世界的にもこれまでの金融緩和一辺倒の動きが転換し、一部、新興国のなかには利上げに向かう国も見られるようになり、世界的な金融政策連動は緩和一辺倒から転換し、利上げも含め出口に向けたサイクルに入りかけている。

 最近のECBの動きを見ても、微妙に出口を模索する動きも見えだした。日本は1990年代のバブル崩壊以降の「失われた20年」の間、続けられてきた低金利政策からの出口戦略を米国の景気回復に後押しされて一気に行う必要がある。米国の回復が続くうち、すなわち、米国の利上げが続くうちに、なんとか早期にマインドを改善させて出口に向かう戦略を描かざるをえない。

 日本の出口戦略は、国債市場への影響も含め、金融機関の経営の健全性、財政の持続性、インフレなどの様々なマクロ環境を同時に目配せする対応が不可欠で、かつ国際的政策連動のなかで行う必要がある。前回の「5回目のジンクス」で、金融危機や米国のITバブル崩壊後からの出口が、結局、「あだ花」に終わってしまったのも、「5回目のジンクス」として国際連動の荒波に翻弄されたことによる。

欧州も「出口」を模索し始めた
日本の金利、ECBウオッチが必要

 日本が悪循環から脱するには、アベノミクスのフレームワークとして、円安-企業収益回復-株高の好循環と内需拡大の実現が必要になる。その目的に沿えば、まだ当面は金融緩和を継続して円安を実現し、同時に信用拡大に戻すことが必要だ。こうした状況を実現するにはまだ数年はかかることから、「結果として」、6回目も利上げは日本が最後になる可能性は高い。日本はバランスシート調整においては欧州に先行しているが、欧州は日本のようにデフレに陥って企業経営者や消費者の心理がが悲観的になりきっていない分、金融政策の出口に向かうハードルは低い。もとより、欧州はドイツの中央銀行のブンデスバンクの伝統に見られるように、インフレに対する不安を根強く持つだけに、引き締めに転じやすい性格を持っている。さらに、今日、ドイツはユーロ安で経常収支をため込んでいるという批判が米国からもあること、マイナス金利の継続に対し欧州金融機関からの不満も根強いことなどの要因があるだけにマイナス金利を正常化させる動きも生じやすい。

 現在の日本の状況だけを見れば、超金融緩和からの出口を議論することはいまだ夢物語の段階だ。だが一方、海外との政策金利の連動の観点から見れば、常に二番手で動いてきた欧州の動向は、日本の金利の動きへの大きな前触れになっていた。それが過去40年の歴史だ。それだけに、6回目のジンクスにおいても、欧州の動きに注目が必要だ。市場関係者とすれば、日本の金融政策に変化はなくても、ECBが出口に向かうことが日本の債券市場における金利観に大きな影響を与えることに留意する必要がある。今後、BOJウォッチャーにはECBウォッチが必要になってきた。日本の金利の動きを占う「炭鉱のカナリア」の役をECBが担っている。

 一方、日本が出口に向かうための絶対条件に、米国が利上げを続けるか、少なくとも利下げ局面にないことも認識する必要がある。すなわち日本が出口に向かう猶予期間は先頭の米国が下げに向かうまでの限られた期間になる。米国の利上げ観測は、年内に何回かということで、予想されている。利上げ継続がコンセサスであり、こうした傾向は2018年までは続くというのが、市場の大勢だ。しかし、2019年、20年まで利上げが続くかは見方が分かれる。もし仮に2020年ごろにかけて、米国が利下げに転じ、そこまでに日本が出口に向かっていない場合、「6回目のジンクス」が成立せず、日本は再度、米国が利上げに向かう次のラウンドまでは、利上げ・出口を待つ必要がある。ただし、日銀は4回目と5回目に出口を急いだ反省があるので、今回は出口を焦らないのではないか。その結果、日本の出口は今回の米国の利上げサイクルでは実現できない可能性もあると同時に、マイナス金利も含めた超低金利政策の長期化のリスク、「永遠のゼロ」リスクもある。

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