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自動車産業が消える日

2015.04.16

Tour Of Ecoful Town Developed By Toyota Motor Corp.

TOYOTAが作る車と、APPLEが作る車、あなたはどちらをクールだと感じるだろうか。
きょうはそんな話題。

自動運転車の普及をリードするのは、当然、既存の自動車メーカーが中心となる。
トヨタや日産といった国内大手が次々と自動運転車の開発に着手しているのを聞き、そう考えていた人も多いのではないだろうか。

だが、現実は違う。
なぜなら、自動運転車が一般的になった社会では、クルマは「家電のひとつ」になるからだ。

「近い将来、自動運転車の燃料がガソリンから電気に変わる可能性は限りなく高い。すると、エンジンが不要になり、クルマはモーターで走るようになります。エンジンはクルマをクルマたらしめる、技術力の結晶。現在の自動車メーカーの優位性はまさにそこにあり、逆に言えば、それがなくなるということは、誰でも簡単にクルマを作れるようになる、ということ。

そうなれば、IT企業やベンチャーも自動車産業に次々参入し、熾烈な価格競争が始まる。
アイリスオーヤマ製のクルマが、島忠ホームズで売られるようになっても何らおかしくない」

ハードよりソフトが重要

誰でも作れ、気軽に買えるのだから、起きるのは価格競争だけではない。
テレビが録画機能や画質の高さを競い合っているように、クルマもまた、どれほど付加価値をつけられるかが、消費者動向を左右するポイントになってくる。

技術ジャーナリストで日経BP未来研究所客員研究員の鶴原吉郎氏が語る。

「クルマ専用のオンラインゲームやフロントガラスに映像を映すサービス、クルマ専用のSNSなんてものも登場するかもしれません。それに、新たな広告の手法が生まれるでしょう。たとえば、カーナビの目的地に『横浜中華街』と入れたとします。するとクルマが、『どこどこの店が割引です。移動の燃料費も無料です』なんて、紹介したりする。すると、『じゃあ行ってみるか』と思う人も多いはずです。

自動運転車を活用した旅行会社のツアーも出てくる可能性がある。クルマが観光地まで連れて行ってくれて、穴場スポットやレストランなどすべてお任せで回ってくれるんです。強制的におみやげ屋に連れて行かれるかもしれませんが、それさえ我慢すれば後は乗っているだけでいい。ガイドブックも何もいらないとなれば、これも利用者は結構いるでしょう。

つまり、運転する必要のなくなったその移動時間に、いかに有意義なものを提供できるか。それが各メーカーにとって重要になってくる」

クルマが家電となれば、従来の自動車産業の優位性や価値観は一切、通用しなくなる。

自分で運転をしないのだから、エンジンの性能やハンドルを切ったときの滑らかさといった要素は、誰も求めない。従来のクルマは、アナログレコードのように、運転好きだけが楽しむ嗜好品になるだろう。

近い将来に起きるそんな状況を、日本の自動車産業の盟主・トヨタはどう受け止めているのか。

「自動運転技術の開発は進めていますが、あくまで安全性を高めるため。ドライバーの方々に、いかに安全に運転をしていただくか、いかに事故を減らすか。こうした部分を技術開発でサポートしていく。自動車会社として、そういう立ち位置になります」(トヨタ自動車広報部)

あくまで「人が運転を楽しむ」ことを前提とした回答。レーサーでもある豊田章男氏が社長であるだけに、迫り来る「家電化」の波は認めたくない未来なのかもしれない。

トヨタだけでなく、日本の自動車メーカーが、クルマ作りに関して世界でもトップクラスの技術力を擁していることに疑いの余地はない。だが、既存の技術に自信を持っているからこそ、それが仇となり、変革に遅れを取る可能性が高いのだ。

クルマが家電になったとき、真っ先に影響を受けるのは、主要自動車メーカーの下請け・孫請けたちだ。

「エンジンまわりの細かい部品を請け負っていた下請けや孫請けが、仕事を失う。低価格化のために車体の部品点数自体も減りますから、部品メーカーも淘汰が進むでしょう。消費者のニーズが変わるのだから、自動車業界全体がまったく違う発想で仕事をしなければならなくなるんです」(前出の鈴木氏)

車内でゲームをしたり、映像を見たりといったソフトに関するノウハウを、現在の自動車メーカーが持っているとは考えにくい。

事故の責任は誰に?

その現状を見越しているかのように、新しい業界の担い手となるべく、各国のIT企業は自動運転車の開発に着手。その先頭を走っているグーグルは、’20年の自社開発の自動運転車の実用化に向けて、100万㎞以上の公道実験を無事故で行っている。

「グーグルが『ストリートビュー』を提供しているのも、将来自動車業界に進出するために他なりません。今から道路の情報を集めているんですよ。完全自動運転にまだ時間がかかるのはわかっているが、それが実現すればこれまでの投資を一気に回収できると考えているんでしょう」(自動車評論家の国沢光宏氏)

アップルもまた、食指を動かしている。’12年9月に、それまでiPhoneに使っていた地図アプリを、グーグルのものから独自開発のものに変更。当初は不具合によるクレームが相次いだが、現在ではグーグルと何ら遜色ない機能を搭載できるようになった。

さらに’14年にはジュネーブモーターショーで「カープレイ」というシステムを公開。これは音楽再生や音声通話などのアップルのサービスをクルマの中で受けられるというもので、明らかに自動車分野を重要視する姿勢を窺わせている。

日本の自動車産業は、約2万5000社からなる「超」巨大産業。その従業員数は約547万人におよび、日本の全就業人口の8・7%、製造業人口の49・6%、およそ半分を占めている。

自動運転車が実用化しても、彼らのすべてが職を失うということはないだろう。だが、トヨタやホンダといった日本経済を支えてきた自動車メーカーが、グーグルやアップルといった海外IT企業の下請けに成り下がれば、それは日本が誇ってきた「自動車産業」が消滅することを意味する。

大きな変革にさらされるのは、自動車メーカーだけではない。損害保険会社もまた、業態が完全に変わるだろう。

現在の交通事故の90%は、人的要因によるもの。わき見運転、無謀運転、スピード超過といったことが原因だ。当然、自動運転車にこれらはありえない。

アメリカのシンクタンクによる調査では、自動運転車の普及が10%に達すると交通事故を50%減らすことができ、普及が90%に達すれば事故をほぼゼロにできる、と報告されている。

「事故がなくなるのだから、保険に入る必要はない。現実的には自動運転車の普及が進み、事故の確率が低下するにつれて保険料が値下がりし、いずれは消滅するでしょう」(前出の鈴木氏)

とはいえ、過渡期においては、自動運転車と従来のクルマが混じりあい、予期せぬ事故は発生するだろう。また、自動運転車が一般化したとしても、ソフトウェアのバグやハッキングによる事故の可能性は否定できない。その際の責任の所在は誰にあるのか。損害保険会社に聞いた。

「現状、具体的な部分までは考えていません。会社としては次世代の車社会に向けたプロジェクトチームをつくりました。事故が減るという前提で検討しなければならないという認識はありますが、具体的にどこから検討すればいいのかは、雲をつかむような話で……。トヨタさんなどと意見交換はしています。まだそういった段階です」(あいおいニッセイ同和損害保険・広報室)

運転免許もいらなくなる

自動運転になれば、道交法に違反するクルマもなくなる。これまでスピード違反の取り締まりに大量の人員を割いてきた警察にとっても、それは大きな問題だ。

「現在、約3万人いる交通警察がいらなくなる。スピード違反の罰金によって得ていた『収入』もなくなります。仕事と稼ぎを同時に失うことになり、警察としても余剰人員をどこに振り分けるか、頭を悩ませることになるでしょう」(警察関係者)

現状、道交法そのものを改正する動きはない。しかし今後、事故もなく違反車もないのだから、人間よりも機械に運転を任せたほうが安全、という認識が一般化すれば当然、改正を余儀なくされるだろう。

運転免許は不要になり、自動車教習所は「どうしても自分で運転したい」という人のためだけに数ヵ所残る程度に減少。飲酒運転という概念もなくなるはずだ。

そして今後、さらに自動運転車の技術が発展し、社会がその安全性を認識した時、待っているのは「無人自動車」が走る未来だ。

「必要な時、必要な用途に応じてクルマを呼び出すようになると思います。みんなでキャンプに行きたいという時には大型のワンボックス。一人で出かける時には、一人乗り用の小型車といった具合です。クルマを所有するコストを考えれば、呼び出すほうが、はるかにメリットがありますからね」(前出の鶴原氏)

そうなれば、タクシーやバスの運転手までもがみな、職を失うことになる。

また、駐車場も姿を消すだろう。目的地に着いたらクルマを帰せばいいのだから、停めておく必要がないのだ。

まさにクルマが「移動型家電」となる近未来。消費者にとってはメリットばかりの便利な世の中とも言えるが、それによって失われる仕事も数多い。自動運転車が日本経済に与えるインパクトがどのようなものになるか、それはまだ予測がつかないが、必ずしもバラ色というわけではなさそうだ。

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