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大手生保の保険料は米国の2倍もするのはなぜか

2015.04.22

日本の生命保険料は、世界的にみて本当に高いのでしょうか。高いか安いかの判断は、一般には、それほど簡単ではありません。その商品の価値をどう感じるか、という主観が入ってくるからです。その後で、価格の比較の問題になります。

どの店のラーメンを評価するかは、おいしさ(感覚)と他店との値段(比較)を総合的に考えて「あそこは、おいしくて安い」と判断しているわけです。

保険の場合はどうでしょうか。保険は味気ない無機質な金融商品です。だからラーメンより判断するのが簡単です。ラーメンのように付加価値(味覚、お店のブランド)はありません。ある保険会社の保険に入っているから幸せだとか、より安心だと感じるということは通常はないでしょう。

保険はきわめてシンプルな商品

保険はお金をいくら払って、どれほどの保障を得られるか、というシンプルな商品です。その意味で、保険はコモディティ(差別化困難)商品です。ですから、同じ保険を買うならば、安ければ安いほどいい、ということになります(保険会社はおそらく「サービスという付加価値がある、そこに違いがある」と反論すると思いますが、ここでは保険商品そのものについて考えています)。



日本の保険料が高いのかどうかを知るために、米国の保険料と比べてみましょう。比較するには、もちろん、同じ内容の保険で比べなければなりません。世界各国の物価水準を比べる場合、各国にあるマクドナルドのハンバーガーの値段で比べる手法があります。基本的に、どこの国でもマクドナルドのハンバーガーは同じだからです。同様に、どこの国でもプラン内容が同じなのが、一定期間、死亡だけを保障する「定期(死亡)保険」です。この保険で日米の保険料を比べてみましょう。

為替を1ドル100円で試算してみます。すると、米国の保険料は日本の約半額という結果になります。詳しく言うと、日本の大手生保より約50%安く、日本のネット・通販系生保より約25%安い水準です。

この種の比較計算には為替レートが大きく影響します。最近の円安相場、1ドル=120円ですと、大手生保より40%、ネット生保よりも10%安くなり、その差は縮小します。とはいえ、日本の大手生保の保険料が米国の水準と並ぶためには、1ドル=210円まで円安が進む必要があります。

最近は日本でも、ネット・通販系生保や各種共済がかなり保険料を引き下げ始めています。そのため、この10年で日米の保険料格差は縮小傾向です。かつては、高い日本の保険を見限り、米国で生命保険に入る日本人も多く見られましたが、最近は減ってきているようです。しかしそうは言っても、日本の保険料水準は欧米と比べた場合、まだまだ高止まりの状態にあります。格差はそう簡単には埋まりません。

高い生命保険料、その3つの理由

どうしてこのような保険料の差が生じるのでしょうか。実は、為替とは関係なく、そこには日本の保険の構造的な問題があるのです。その主な理由は3つです。

1.保険会社の手数料が高い
2.保険料の元値が高い
3.プーリング(リスクの度合いに応じて保険集団を分ける)方式が硬直的である


主要な金融商品の中で、手数料が際立って高いのが保険です。たとえば、投資信託は3~5%ですが、損害保険は30~35%です。ひとケタ違います。皆さんの払う100円の保険料のうち、30~35円が手数料として取られているということです。これに対し、欧米では20%台です。これは欧米の保険会社が経営の効率化により、日本よりも少ない経費で保険事業を運営していることを意味します。

生命保険はどうでしょうか。ほとんどの生保会社は、手数料を公表していないので不明です。ただ、おおよそ損害保険と同じか、それより高めの水準と考えられます。保険の手数料が高いのは世界共通ですが、先進諸国の中で日本は突出しています。

保険はギャンブルと同じです。下手をすると胴元である保険会社が負けて損をすることもあります。そこで保険会社は確率論(保険数理)を使って、滅多なことでは損をしない仕組みを作りあげています。保険は高度な確率でつくられた商品です。

一方、保険会社は、死亡や事故の際に支払うお金を準備するため、事前に十分な保険料を集めておく必要があります。保険料のうち将来の支払いに備えて集めた分、それが保険の元値(原価)です。

保険料は死亡率や事故率を用いて確率論から計算されます。ところが確率は、いくら精緻なものであっても、あくまで将来予想です。予想は外れることもあります。そこで日本の保険会社は、さらに安全を見込んで、保険料を高めに決めています。

米国の保険会社は、厳しい保険料の価格競争にさらされていますので、日本ほど安全率を上乗せすることができません。こうして元値の決め方でも、日米の保険料格差の違いが出るのです。

「割り勘」か「個別払い」か?

最後が、日米のプーリング方式の違いです。プーリングとは保険リスク(たとえば、健康と不健康)の度合いに応じて、保険集団(健康なグループと不健康なグループ)を分ける考え方です。少し難しそうですが、友達と居酒屋で飲んだあとの支払い方と同じです。支払額をみなで均等割りするのが「割り勘」です。それでは納得できない、あいつはオレの倍以上飲んでいる、だから勘定は別々にしよう。それが「個別払い」です。

日本の生命保険料は、主に「割り勘」方式で決められています。みんなで公平に同じ金額を負担する(保険料を払う)方式がメインです。それに対して、米国は「個別払い」方式を多く取り入れています。多く飲んだ人(不健康な人)は、その分多く払います。飲まなかった人(健康な人)は、多く飲んだ人の分を負担しませんから、安くなります。

日米の保険料の違いはこの方式の違いにも表れてきます。私が米国で生命保険に入ったときは、日本の保険料の3分の1でした。健康度が5段階の上から2番目だったからです。

プーリング方式は良し悪しの問題ではなく、参加者(保険加入者)の納得感の問題です。米国では、各人のリスクに応じて保険料を決めるのが、合理的と考えます。一方日本では、多少の損得があっても、保険料を同じにするのが保険本来のあり方だと考えます。どちらも一理あり、あとは加入者がどう納得するかということになります。

ただ消費者にとって、選択肢の多いほうが満足度も高いとするなら、日本の生保会社は、プーリングをもっと弾力的に取り入れるべきだと思います。現に、自動車保険ではリスク細分型保険として、いろいろなタイプの保険が登場し始めています。あまり運転しないドライバーは、その分、安い自動車保険を選べます。日本もようやく、さまざまな自動車保険を「選択」できる時代になってきました。

保険の手数料は、保険会社の経営努力により、今後、ますます引き下げられていくでしょう。すでにその動きは出始めています。しかし、まだまだ欧米並みの水準にはなっていません。保険の元値は、金融行政の考え方の問題もからみ、相変わらず高止まりの状況が続いています。プーリング方式は、いっそうの弾力化が求められます。リスク細分型の自動車保険が開発されて、日本のドライバーたちの保険への満足度は上がりました。この流れをますます広げていくべきでしょう。

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