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「日本は借金まみれ」という人の根本的な誤解 「政府の借金」と「家計の借金」は同じではない

2017.11.21

日本の経済メディアでは、「金融緩和・財政政策拡大をやりすぎると問題・弊害が起こる」という論者のコメントが多く聞かれる。

日銀は本当に「危険な金融緩和」を続けているのだろうか


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実際のところ2008年のリーマンショック直後から、米国の中央銀行であるFRBは、国債などの大量購入に果敢に踏み切り、それが一足早い米国経済の正常化を後押しした。その後、2012年の第2次安倍晋三政権誕生後の日銀総裁・副総裁人事刷新を経て日本銀行はFRB(米国連邦準備制度理事会)にほぼ4年遅れる格好で大規模にバランスシートを拡大させる政策に転じた。

これが、アベノミクスの主役となった量的質的金融緩和政策が始まった経緯である。筆者には日本のメディアがこれを正しく伝えているようには思われず、いまだに日銀は「危険な金融緩和」を続けているなどといわれている。

実際には、最も金融緩和に慎重とされたECB(欧州中央銀行)も含めて、多くの先進国の中央銀行は大規模な資産購入拡大を行っており、日銀もその1つにすぎないというのが投資家の立場での、筆者の見方である。つまり、雇用を生み出し国民生活を豊かにするために、米国などで実現している金融緩和政策が、日本でも2013年になって遅ればせながら実現しただけである。始めるのが遅かったのだから、FRBよりも日銀の出口政策が遅れているのは、やむをえない側面がある。

また、アベノミクス第2の矢とされた拡張的な財政政策は、政府部門の債務を増やす政策である。「日本の財政は危機的な状況にある」というのが通説になっている。

「借金が増え続けている」というフレーズだけを聞くと、不安に思う一般の人々が多いのは仕方ないかもしれない。たとえば年収500万円の人が、1000万円の借金を抱えることになれば、その負担が大きいのは確かだ。そして、日本は国民1人当たりの借金が数百万円に達するなどと頻繁に伝えられている。

しかし、メディアでいわれる「日本の借金」とは、個々の家計が抱える借金とはかなり異なるのが実情である。国民1人当たり数百万円の借金があるという言い方は、機械的に計算するとそういう数字が出てくるだけにすぎない。

これは、日本の財政状況の危機が深刻であるかのように政治的にアピールする方便の1つだと筆者は常々考えている。この事実を理解するには、政府・企業・家計という主体別にバランスシートを分けて考えたうえで、俗にいう「日本の借金」は、実は政府の負債であり、家計や企業から政府が借金しているという貸借関係を頭に入れる必要がある。

そうすると、「日本の財政状況は、家計が大規模な借金を抱えている状況」というイメージと実情がまったく異なることが理解できる。よく知られている話かもしれないが、政府部門では、2017年3月末時点で、借金である国債などが1052兆円の負債として計上されている。

政府は借金の一方、日本人は国債という資産を保有

だが、政府よりも大きなバランスシートを持つ金融機関と家計・企業によって、この1000兆円規模の国債(政府負債)の多くが「資産」として保有されている。つまり、政府は借金しているが、一方で日本人が「国債という資産」を保有していることになる。

実際に国債を大量に直接購入しているのは銀行、生命保険会社などの金融機関であり、約1000兆円の国債などを金融機関が資産側に保有している。

一方、家計・企業が国債を資産として保有している分は限られる。ここで、なぜ銀行や生命保険会社が国債を大量に保有するかを理解する前提として、金融機関と家計・企業のバランスシートの関係を理解する必要がある。

金融資産を蓄積している家計・企業の預金や保険料(将来の保険支払いに充当する)が、金融機関にとっての負債に相当するが、その見合いで金融機関は何らかの金融資産を保有しなければならない。その投資先が、1000兆円規模の安全資産である国債になっているわけである。

政府負債である国債をめぐる貸借関係を整理すると、家計・企業の預金(約1200兆円)を原資にして、金融機関を通じて、政府の負債である国債のほとんどが国民によって金融資産として保有されているということになる。要するに、政府部門は1000兆円の負債を、家計や企業などの国民から一時的に借りているだけである。

これを理解すれば、日本人全体でみれば、たとえば500万円の収入の家計が、収入の2倍の規模(1000万円)のローンを抱えているというイメージと、現実がまったく異なることが理解できるのではないか。「借金大国日本」のイメージはバランスシートの1面にフォーカスしているだけで、バランスシートの別の部分をみれば、家計・企業の収入は500万円あるが、同時に安全資産である1000万円の金融資産を保有していると言うこともできる。そういえば、日本は大変豊かな国である、と多くの方は感じるのではないか?

財政健全化に傾倒する「緊縮策」は危険な思想


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米国の経済学者である、ブラウン大学のマーク・プライス教授は、財政健全化などを至上命題とする政策を「緊縮策(Austerity)」として、それに傾倒する考えを、危険な思想であると批判している。日本においては、金融市場・経済当局・メディアの関係者の多くが、この「危険な思想」にとらわれているように筆者には見える。安倍政権になってからの2014年の消費増税の失政により、脱デフレ完遂に時間がかかってしまった経緯などをみれば明らかに思える。

日本が「借金まみれ」というのは誤解で、むしろ実際には世界一の資産保有国である。財政赤字や公的債務問題は、日本の「有権者」が自ら選んだ政府に一時的に貸している資産(借金)が増えている、というだけである。そして政府から有権者である国民への借金返済ペースは、国民経済を豊かにするために、余裕を持って決めることができる。性急な増税が妥当な政策なのか、われわれ国民は冷静に賢く判断できると筆者は考えているが、「危険な思想」に傾倒した方々には、冷静な判断が難しいのかもしれない。

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