世界の投資関連ニュースを独自視点でお伝えしています。

基軸通貨国の矜持捨てる 米財務長官、「強いドル」と決別発言

2018.01.26

ムニューシン米財務長官は24日、世界経済フォーラム(WEF)が開催されているスイスのダボスで記者団に「ドル安は貿易と機会に関連するため、もちろん、われわれにとって良いことだ」と述べ、ロバート・ルービン第70代財務長官が確立した「強いドル政策」から決別した。米国はトランプ政権の登場で、基軸通貨国としての矜持(きょうじ)を完全に失ってしまったようだ。

 新たな「口先介入」

 「強いドル政策」とは、1995年4月の一時的な1ドル=80円割れにつながるドル安局面で、危機感を高めたルービン長官が、ドル相場を押し上げるために考案したものだった。「強いドルは米国の利益」と繰り返し唱えることにより、日本との貿易戦争で行使した対日「円高圧力」からの決別を市場に認識してもらうことを狙った。

 米国は対外収支の赤字が恒常化しているため、必然的にドル安トレンドをたどってきた。相場は往々にして行き過ぎるため、ドル安行き過ぎのリスクが生じたときに、「強いドルは米国の利益」と唱えて市場にドル価値の維持を認知してもらう必要がある。

 所期の目的が達成された後、歴代財務長官はドル安が行き過ぎそうになった時に発するドル押し上げのための「口先介入」として利用してきた。これに対して、ムニューシン財務長官はドル安トレンドの真っただ中で、「ドル安はわれわれにとって良いことだ」と語り、ドル安を加速させてしまった。まさに「弱いドル政策」への転換である。

JPモルガン・チェース・インターナショナルのジェイコブ・フレンケル会長は、ダボスでブルームバーグ・テレビとのインタビューに応じ、ムニューシン長官の発言について「通貨戦争は保護貿易の鏡像」であると述べ、「逆効果になる」と警告した。

 米通商代表部(USTR)は22日、米国は海外で製造されたソーラー設備に最大30%の関税を課すと発表。さらにトランプ大統領は、海外から輸入された洗濯機に最大50%の関税を課すことも承認した。

 包括的な保護貿易

 ムニューシン財務長官による「弱いドル政策」はトランプ政権の包括的な保護貿易政策の一環として動き出したようだ。これは基軸通貨ドルの将来にとって危険な門出となるだろう。

 ユーロ・ドル相場でみると、終値では2016年12月20日に付けた1ユーロ=1.0388ドルをドル高値にして、今年1月24日の同1.2408ドルまで約20%下落してきた。1982年から現在までカバーしているが、トレンドチャネルでユーロが長期の上昇トレンドを歩んできた。

 2度の大きなユーロ上昇波動において、ドルが2度ボトム(ユーロ・ピーク)を付けてきた。初めのドル・ボトムは92年9月2日の1ユーロ=1.4899ドル。次いで2008年4月22日の1.5991ドル。この間、00年10月25日にドル・ピーク(ユーロ・ボトム)を記録。その後一循環して、16年12月20日に記録した1ユーロ=1.0388ドルが、今回のドル安トレンドの起点となった。

この起点から1年後に「弱いドル政策」が明確にされたものだ。前回のドル安局面では、ジョージ・W・ブッシュ第43代大統領の下で曲がりなりにも「強いドル政策」が維持されていた。今回は「弱いドル政策」に転換しており、トランプ政権の包括的保護貿易主義の下でドル安が一段と加速していくことになりそうだ。

 保護貿易政策は貿易相手国から報復を招き、国際貿易の縮小から世界同時不況に陥るリスクもある。これまでも基軸通貨ドルと準基軸通貨ユーロ相場がトレンドチャネルの限界点に達したところで景気後退に突入してきた。基軸通貨国が通貨価値維持の責任を放棄し、保護貿易主義の姿勢を強める中で、大きなショックに見舞われるリスクが高まってきたようだ。

関連記事

アーカイブ