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日本経済は消費税10%に耐えられないかもしれない 深刻に低下している日本経済の基礎体力

2018.06.18

政府が策定する経済財政運営の基本方針(いわゆる「骨太の方針」)に消費税の10%への増税が明記された。景気への影響を最小限にとどめるため、大型の景気対策も実施する。

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 本来、増税は景気に対して大きなマイナスにはならないはずであり、消費増税による景気悪化を懸念しなければならないのは、日本経済の基礎体力が弱っていることが原因である。増税を実施しつつ、得られた税収を景気対策につぎ込むという形では、本質的な解決にはつながらないだろう。

今、景気が悪いのは消費増税のせい?
 政府は来年(2019年)10月の消費増税に備え、2019年度と2020年度に大規模な景気対策を実施する方針を固め、骨太の方針に盛り込んだ。政府は財政再建を進めることを大前提としているため、この措置は、財政再建とは別枠で処理される。

 8%から10%への増税に対してここまでの対策を講じるのは、前回の失敗を繰り返さないためである。政府は2014年4月に消費税を5%から8%に増税したが、これをきっかけに日本経済は一気に失速してしまった。

 量的緩和策の実施後、消費者物価上昇率が1.5%(総合)を超えるなど、経済は順調に推移するかに見えたが、消費増税をきっかけに物価上昇は一気に鈍化し、年末にはほぼゼロ%まで下落してしまった。2014年4~6月期の実質GDP(国内総生産)成長率はマイナス1.8%とボロボロの状況となり、7~9月期も0%にとどまった。今、景気が悪いのは消費増税を強行したことが原因であるとの指摘は多い。

本来、消費増税というのは、景気に対してそれほどのマイナスにはならないとされている。増税によって政府が徴収した税金は、政府支出という形で国民に戻ってくるため、マクロ的に見れば所得が増えるというのがその理由である。増税という心理的な負担が消費を抑制することはあるだろうが、これが長期にわたって経済を蝕むというのは少々考えにくい。

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 もし前回の消費増税によって本当に景気が悪化したのだとすると、増税というよりも、日本経済の基礎体力、特に消費が弱っていることが最大の原因と考えるべきだろう。その証拠に前回の消費増税では、極端な駆け込み需要とその後の反動減という、奇妙な現象が観察された。

1円でも節約したい人が増えた
 住宅など高額な商品を増税前に駆け込みで購入するのは合理的な行動といってよい。一生のうち1回か2回しかないような大きな買い物の場合、増税前と増税後では支出総額が大きく変わってくるからである。だが、前回の消費増税では、生活必需品の駆け込み需要も見られた。

 生活必需品というのは、一生買い続けるものなので、増税前に多少買いだめしたところで、長期的に見ればその効果はほぼゼロになってしまう。日本の消費税に近い付加価値税の導入を行っている欧州では、増税前に駆け込み需要が発生するという現象は起こっていない。

 欧州の場合、税率引き上げのタイミングが事業者の裁量にゆだねられており、ある日を境に、一斉に税込み価格が上昇するわけではない。これが駆け込み需要を抑制していると政府は説明しているが、おそらくそうではないだろう。なぜなら1997年に実施された5%への消費増税の際には、日本でもここまでの駆け込み需要は見られなかったからである。

 前回の増税にあたって、買いだめする人が店に殺到したということは、1円でも節約したい人が増えたということであり、これは日本の消費経済がかなり弱体化していることを示している。

政府は10%への増税に際して、財政出動を強化することでマイナスの影響を和らげようとしている。一部からは増税分のほとんどを景気対策に投入すべきとの声も上がっているが、こうした手法に対しては異論もある。そもそも消費増税によって景気が悪化するというのであれば、増税しないことが最善策であり、増税による税収増を景気対策につぎ込むのは本末転倒という考え方である。

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日本は内需経済に移行しているはずだが・・・
 消費増税の是非という命題に対して、正しい結論を得るためには、そもそもなぜ景気が上向かないのかという根本的な部分に目を向ける必要があるだろう。

 日本経済が弱くなっている原因が、単純で単一なものとは考えにくいので、正しい処方箋を書くのはそう簡単ではない。ただ、ひとつだけ言えることは、数字の上では日本は内需経済型に移行しているはずなのに、いまだに輸出依存体質から脱却できていないという現実である。

 デフレが続いた過去20年を振り返ると、その中で相対的に景気が良かったのは2003年から2007年までの4年間と、2015年から2018年までの4年間である。この2つの期間において経済が拡大した理由は明白で、米国の好景気を背景とした輸出の増大である。

 2003年から2007年までの景気拡大は、リーマンショック前の米国バブル経済の恩恵を受けたものであり、今回の景気拡大はトランプ経済の影響が大きい。

日本のGDPに占める輸出の割合は限りなく小さくなっており、数字の上では日本はもはや輸出立国ではない。だが、現実の経済は米国の好景気を背景とした輸出拡大に依存しており、従来から大きく変わったわけではない。

 製造業の大半は現地生産化が進み、国内では製造業からサービス業にシフトしている現状を考えると、本来なら、内需がもっと活発になってよいはずだ。内需が拡大しない理由としては、将来への不安から支出が抑制されている、政府の規制によって新しい産業の創出が邪魔されている、雇用が硬直化している、といったあたりが考えられる。

 国内工場の建設や工場労働者の賃金増加が内需を押し上げる時代ではないことを考えると、内需不振は構造的な問題である可能性が高い。

もしそうであれば、内需の恒久的な不振に対して、消費増税を前提にした景気対策の是非について議論してもあまり意味はないだろう。

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市場に大きな動きがなければ政府は動けない?
 もし内需の不振が、将来への不安要因から来ているのだとすると、今回の骨太の方針において、増税分の資金使途に関する枠組みが撤廃されたことは、マイナスに作用するかもしれない。

 これまで政府は、増税による増収分については、5分の1を社会保障に充当し、残りを財政再建に回すとしていた。だが今回の方針ではこれが撤廃され、教育負担の軽減などに半分を充当し、残りを財政再建に回すことになった。

 消費者の不安心理がどこから来るのかについて特定することは簡単ではない。年金や医療など社会保障に対する不安が主な原因という可能性もあるし、日本の財政について懸念する人もいるだろう。増税分の資金使途について、こうした状況をふまえた上で戦略的に決定されたのであれば問題ないが、与党内からの予算拡大の声に押されたとの指摘もある。

 政府は2020年までに基礎的財政収支を黒字化するとの公約を掲げてきたが、達成は事実上、不可能となっている。今回の方針では財政再建目標の後退が明記され、黒字化の時期は2025年度までズレ込んだ。しかしながら、増税分の使途に関する制約が撤廃されたことを考えると、2025年の黒字化も難しいだろう。

 今回の増税と景気対策は対症療法に過ぎず、根本的な処方箋になっていないという点では、これまでと同様である。市場に何らかの動きが発生しないことには、政府は決断できないのかもしれない。

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