世界の投資関連ニュースを独自視点でお伝えしています。

持ち家か賃貸か

2015.06.18

Morning Commuters And Residential Property In Tokyo's Suburbs As Recession Provides A Blow To Abe's Re-election

自宅の住居に関して、「持ち家か、賃貸か」は雑誌などで頻繁に取り上げられるテーマだ。
あるテレビ番組がこのテーマを取り上げることになり、たまたま筆者は「賃貸派」側に立ったディベートへの参加を求められることになった。

率直にいって、筆者の側は、経済的に著しく損なディベートへの参加となる。
テレビで不動産を買う方が得だと論じると、不動産会社や金融機関が今後開催するセミナーの講師などに呼ばれる可能性が大きい。
評論家にとって、講演こそが割りのいい収入源だ。

しかし、「不動産を買っても得にならない」と論じる筆者の側は、不動産会社からも銀行などの金融機関からも講師として不人気だろう。
もっとも、もともと彼らには不人気なので、実害は小さいが。

今回は、このディベートに臨むにあたって、主に賃貸派の側から見た不動産について論点をメモしてみたい。

いきなり日和るようで恐縮だが、「持ち家か、賃貸か」は一概には決められない。
主として、家賃と不動産価格との間の関係で決まる。
不動産価格が高すぎるなら賃貸がいいし、不動産価格が十分に安い時は持ち家がいい。

不動産価格の高低の判断基準は、「自分が払うはずの家賃も含めて収益と見なした時に、リスクに見合うリターンがあるかどうか」だ。


筆者は不動産の専門家ではないので、昨今の不動産事情の参考書として沖有人『2018年までのマンション戦略バイブル』(朝日新聞出版社)を参照した。
豊富なデータに基づいて不動産事情が的確に紹介されている良著で、不動産に関心のある方には一読をお勧めする。
経済の見方についても筆者と一致点が多い。

だが、本書はマンションを買うべきだと推奨し、筆者は、特に普通の人は買わない方がいいと考えた。
結論は正反対となった。

なぜ正反対の結論がでるのか

沖氏は、東京都心の好立地にある主にタワーマンションを購入して自宅として住むことを勧めておられる。

主な理由は、アベノミクスによる金融緩和、外国人のマンション需要、相続へのマンション利用に伴う特需などだ。
また、見かけの家賃利回りに惹かれて郊外のマンションを買ったり、今後地価の下落が予想される郊外の一戸建てなどは買わない方がいいと論じている。

同書によると、収益還元法的な不動産価格評価が普及した結果、家賃と不動産価格の間の関係がかつてよりもはっきりして、東京の郊外のマンションの家賃利回りで5%くらい、都心の人気物件では3~4%くらいだという。

問題は、この不動産価格が「買い」かどうかの判断だ。

仮に、郊外の物件は価格下落の損が発生するとしても、都心の人気物件は値下がりせずに転売できると考えてみよう。
3~4%は好利回りか。

もちろん、事後的に結果がそうなれば現在の長期金利(0.5%程度)から見ても大いに得なのだが、意思決定の段階では、この利回りは不動産の投資リスクを負っての期待リターンだ。

では、不動産のリスクはどのくらいあるのだろうか。 

マンション相場のリスクを推測するために、優良マンションへの投資が多いと思われるJ-REIT、日本アコモデーション投資法人の取引価格のリスクを過去5年分の月末価格から計算してみた。
結果は、約19%(リターンの年率標準偏差)であり、日経平均のリスクといい勝負だ。

一方、同法人は借り入れを行ってレバレッジを用いた投資を行っており自己資本比率は約45%だという。
レバレッジ1倍のマンション価値のリスクは9%くらいだろう。

ただし、個別のマンション投資への場合このリスクと同等だと見る訳にはいかない。

このファンドは100以上の物件に分散投資しており、立地の人気変動、個別物件のトラブルなどのリスクを分散している。

また、不動産の稼働率は95%を超えているとのことで、ビジネス的にも平均以上にうまく管理されている物件が多いと推測できる。
個人のマンション投資よりはかなりうまく行っているケースだと見るべきだろう。

また、投資として考えた時、流動性や取引コストも問題となるが、個別不動産の場合買い手を見つけないと売れないし一括で売る必要があるのに対して、J-REITの場合市場でいつでも売れるし、分割して売却することもできる。

取引コストも、沖氏の著書によると売却価格の片道約4%という個別の不動産物件(所有8年で住み替えるなら年率1%の利回り圧迫に相当する)よりも株式並みの手数料でいいJ-REIT(ネット証券だと売却額の0.1%以内だろう)は圧倒的に安い。

あれこれの事情を考慮すると、個別の不動産物件に対して、標準偏差では9%の倍の18%くらい、せめて15%くらいのリスクを見ておきたい。

他方、内外株式へのインデックス投資だとリスクが18%程度で、期待リターンが金利プラス5%見込めるとするなら、金融資産への投資の方がリスクとリターンの効率が良かろう
(機関投資家の運用計画における内外の株式の平均的なリスクプレミアムは5%強だ)。

取引コストを考え、メンテナンスのコストも考えると、3~4%という家賃利回りは実質で1%以上低下し、実質的な投資リターンを圧迫するだろう。

ちなみに、前掲書によると、平均的に見てマンションの価格は坪あたり4万円下がり、家賃は築年数が1年増す毎に1%下がる傾向があるという。
家賃利回りに変化がなく、マンションの価格が下がらないというのは、相当に強気の前提条件だといっていい。

なお、「いい物件を選ぶと値上がりするマンションはある」という意見もあろうが、これは「全体が下げ相場でも、銘柄を上手に選ぶと儲かる株は必ずある」という証券マンの根拠無き断言に近いと言っておこう。
少なくとも、事情通ではない「普通の人」は、自分には無理だと考えておくべきだ。

期待リターンが必ずしも高くなくても十分プラスならいいではないか、という考え方もあろうが、これは、資産のごく一部を不動産に振り向ける場合にいえることで、住宅ローンを組んで自宅用のマンションを取得するような、普通の所得と資産の家計にはマンション購入は過大なリスク・テイクと思われる。

仮に、2000万円の自己資金があって、6000万円のマンションを買う場合、3倍のレバレッジを掛けて長期間にわたる信用取引をするようなリスク・テイクとなる。
少なくとも、リスクの取り方として上手いやり方ではない。

沖氏の勧めるような都心の新築マンションのファミリータイプの部屋(70平米以上)は7000万以上するので、普通のサラリーマンがローン無しで買うことは難しいし、まして、分散投資の一部として持つという運用をすることは不可能だ。

購入にローンが必要な人は、それが過大なリスク・テイクであるという理由でマンション投資を諦めるべきだろう。

言うまでもなく現在は低金利であり、住宅ローン金利も未曾有の低さだ。
「銀行が貸してくれるということは、信用があり大丈夫だと言うことなのだから、借りるべきではないか」、あるいは「低金利の今のうちに、できるだけ大きな金額を借りておけ」という意見があるかも知れない。

しかし、低金利でも銀行がお金を貸したがるのはなぜなのか。

それは、低利とはいえ銀行が儲かるからだ。
現金で買わずにローンを使って買うことは、大雑把には銀行の儲けの分だけ損だと考えるべきなのだ。

例えば、固定で1~2%の低金利で借りていても、まとまった臨時収入があれば、ローンの期前返済を勧めるFP(ファイナンシャル・プランナー)は多かろう。
返済を資金の運用として考えると、無リスクで1%或いは2%で運用できる先などないから、これは絶好の運用機会だ。
ローンの期前返済が普通はあり得ない良い運用になるということは、ローンを借りている状態が損だったからだ。

ちなみに、不動産投資の利回りよりもローン金利の方が低いなら儲かっていると考えるのは、リスク付きの利回りである不動産投資のリターンと、リスク無しで返さなければならないローンの利回りを、リスクが異なるにも関わらず直接比較する誤りを犯している。
(筆者は、この金融論的な誤りを某マネー本にちなんで「欲張り父さんの錯誤」と呼ぶことにしている)。

また、低金利で借りていて、将来金利が上昇すると、負債側では儲かっているような気になるかも知れないが、不動産価格は金利上昇によって下落するので、トータルでは儲かっていないことが起こり得る。

家は余るし、人手は不足する

今後インフレが起こった場合、家賃が上昇するし、不動産価格も上昇するかも知れないので、不動産投資が良いインフレヘッジになるという意見についてはどうか。

もちろん、固定利回りの長期債よりも、不動産や株式の方がインフレに強いことはいうまでもない。
だが、賃貸派からいうなら、インフレになる場合、賃金も上昇するはずだから家賃が払えないということはあるまい。
長期的には、人手は不足しており、家は余るのだから、賃金、家賃が共に上がるとしても、賃金の上昇率がより大きいと考えるべきだろう。
そして、もちろん、デフレよりもマイルドなインフレの方が、職を得ることが容易だ。 

不動産価格の決定原理を考えると、家賃上昇率と金利の上昇率のバランスが問題になる。
家賃に上昇期待が生じ、しかし金融緩和で金利が抑えられているインフレの初期はこのバランスが両方とも不動産価格にプラスに働くので不動産価格が上昇しやすい。
これは、アベノミクス導入以降、最近までの不動産価格上昇の背景でもある。

一方、インフレ率が上昇してこれを抑える段階に入ると、金利の上昇が家賃の上昇率を上回る事態が起こる公算が大きい。この場合、不動産の理論価格は下落することになる。
インフレの場合に、不動産が常に有利な運用資産ではない。

ちなみに、政府の中長期経済財政見通しによると、住宅ローンに影響が大きい長期金利は、経済再生が上手く行くケースでは2017年に2.3%、2018年には3.0%、潜在成長率付近で推移するベースラインケースでも2018年には2.0%に達すると予想されている。 

現在の金融緩和、円安、さらに今後に控える東京五輪などは、いずれも不動産価格を上昇させる要因となるが、機敏に売り抜けられる不動産のプロ以外の普通の人は、その後の変化のことも考えておくべきだろう。

まして、自己資産の何倍もの不動産物件をローン付きで買わない方がリスク面で身軽だろうし、東京圏でも手軽な価格の立地や、東京以外の地域の不動産は沖氏の著書でも値下がりが指摘されているのだから、全国津々浦々の「普通の人」は、「不動産は持つのが普通だ」と思わない方がいいのではないだろうか。

関連記事

アーカイブ