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ソフトバンクのリスキーな投資を考える

2015.02.17

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2012年にスプリントを買収した当時、ソフトバンクの孫正義社長は「世界一になるという高い志は持っている」と意気揚々と語っていた。が、米国の携帯電話事業で生じたさまざまな誤算が、明確な数字となって表れている。

1.8兆円を投じて傘下に収めた米携帯業界3位のスプリント。第3四半期(2014年10月~12月)決算では、商標権や固定通信事業の資産を対象に21.3億ドル(約2500億円)もの減損損失を計上し、営業損益は25.4億ドルの赤字に沈んだ。

ソフトバンクは会計基準の違いを理由に、この巨額減損を2014年度の第3四半期(2014年4月~12月)には反映しなかったが、2月10日の決算会見で孫正義社長は、「(ソフトバンクが適用している)国際会計基準では減損したくてもできないが、減損したつもりで経営すべきだ。厳粛に受け止めている」と神妙な面持ちで語った。

株価下落に格付け引き下げ

スプリントが減損の認識に至った理由は複数ある。

秋口には6ドル台で推移していた株価が12月に入って一時3ドル台と半値に下落したこと、大手格付け機関のムーディーズが12月に信用格付けを引き下げたことなど。事業計画についても、「(2013年7月に子会社化した)当初の想定と比べて収益も契約者数もARPU(1契約当たりの月額収入)も下回っていた」とういうことから減損の兆候あり、となった。

スプリントが適用している米国会計基準では、償却をしていない無形資産について個別に検証がなされる。ここには周波数の免許を示す「FCC(連邦通信委員会)ライセンス」やスプリントブランドの「商標権」が含まれる。

FCCライセンスは、子会社クリアワイヤが保有する2.5ギガヘルツ帯の周波数を中心に399億 ドル(4.7兆円)がバランスシートに計上されている。同周波数帯は高速のデータ通信に適しており、周波数オークションを採用する米国ではむしろ価値が高まる傾向にあるため、問題はなかった。一方、ソフトバンクが買収した時にスプリント側に計上した商標権(52億ドル)は19億ドルの減損、第3四半期で3億ドルの赤字だった固定通信事業も、設備などで2.3億ドルの減損を行った。

だが、親会社のソフトバンクが採用する国際会計基準(IFRS)の減損計上はゼロ。IFRSではスプリントの資産全体をとらえて減損テストを行う。今回は12月末のスプリントの評価額(支配権を考慮し、時価から3割上乗せ)が、純資産簿価を上回ったために、連結決算では減損を反映しなかった。

米国会計基準では減損テストを個別資産ごと、IFRSでは資産全体で行うという違いから、スプリントで計上した約2500億円の減損損失が、ソフトバンクの連結決算では「なし」という扱いになったわけだ。

決算会見でソフトバンクの孫社長が「社内でもだいぶん議論したが、減損したくてもできないということになった。今後もスプリントの株価が大きく下落する場合があれば、減損を計上する可能性がないとは言えない。状況を見守りながら一歩一歩改善するようにやっていきたい」とも語ったように、業績不振でスプリントの株価が下がり続ければ、実損としてソフトバンク決算に影響を及ぼす可能性もある。

減損の背景にある買収とん挫

実は、今回の減損は、業界4位のTモバイルUS買収を断念したことが影響している。買収当初の事業計画と現状の違いについて、孫社長は「買収して伸ばしていく中で大きな柱だったのが(Tモバイルと)合併をさせることだった。これが正直なところ。その思惑が違ってきている。前任者(ダン・ヘッセ前CEO)が楽観的にみたものと、新たな経営陣(8月に就任したマルセロ・クラウレCEO)が現状から立て直した計画の差が主因になっている」と答えているからだ。

つまり、こういうことだろう。2013年7月にスプリントを子会社化した当初は、後にTモバイルを買収し合併させる前提で、スプリントの成長を楽観的に見ていた。しかし、ソフトバンクは規制当局の認可が難しいと判断し、2014年8月にTモバイルの買収を断念した。これで合併シナリオが崩れ、CEOも即座に交代。スプリント単独で戦うことになり、事業計画の修正を余儀なくされた。

2012年10月にスプリントの買収を発表して以降、Tモバイルはソフトバンクにとって悩ましい存在でもあった。同社はジョン・レジャーCEOの下、 2013年4月にアイフォーンの取り扱いを開始すると、かつて日本でボーダフォンを買収したソフトバンクのように、業界慣習を打ち破る大胆な施策を展開 し、ユーザー数を一気に積み上げてきた。

”ソフトバンク流”の戦略を先取りされたことに加え、身内にするつもりだったTモバイルを攻め立てるわけにもいかない。結果的に、スプリントはユーザーを奪われ続け、業績の改善もままならなかった。また、2013年9月にシリコンバレーに開いた日米共同開発拠点も、Tモバイルを含めた3社で開発体制を拡充する算段だったが、買収を断念したことでもくろみが外れ、日本から派遣したソフトバンクの開発人員を引き上げることが決まっている。

昨年8月に就任したクラウレCEOの下で、スプリントは徹底した低価格戦略を展開中だ。現在はAT&Tとベライゾンの2強から乗り換えれば同等のプランで料金を半額にする「Cut Your Bill in Half」を打ち出している。

昨年11月にはAT&Tとベライゾンに向けて「スプリントのファミリープランを知ったらヤギが絶叫するように驚くはず」といったCMを流していたが、今年2月には「ヤギ呼ばわりしたことを謝りたい。ヤギじゃなくて、とにかく料金が高すぎただけだ」などと、挑発的なCMで料金キャンペーンをアピールしている。

Tモバイルが契約者数で”接近”

こうしたマーケティング手法について、業界関係者から「Tモバイルの二番煎じ」との声も聞かれるが、成果は徐々に出始めている。単価が高いポストペイド契約は2014年10月~12月に3万件の純増(子会社群を含まず)となり、27万件の純減だった7~9月期から大幅に改善。そして、全体の純増契約数は89万となった。2月5日の決算で多額の減損を計上したものの、むしろ株価は上昇しており、足元では5ドル台を回復している。

とはいえ、2強の背中は遠い。2014年10月~12月でベライゾンは206万件(うちポストペイド契約は198万件)、AT&Tも190万件(同85万件)の純増を達成している。猛烈な追い上げを見せる4位のTモバイルも、212万件(同127万件)の純増を獲得した。回復したとはいえ、スプリントの純増契約数がもっとも少なく、単価の高いポストペイドの契約者獲得で競り負けている。

2月10日の決算会見で、「挑戦してみて、山の険しさ、高さを改めて認識している」「長く苦しい戦いが始まった」など、常にアグレッシブな孫社長にしては珍しく、スプリントの経営で”弱気”とも取れる心情を吐露した。Tモバイルの2014年12月末の総契約者数は5501万件と5529万件のスプリントにほぼ肩を並べている。4位転落のおそれもあるだけに、スプリント復活の道のりは綱渡りの状況が続きそうだ。

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