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数日で剥落したマイナス金利効果、 待ち受ける副作用への懸念

2016.02.08

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市場にサプライズを与えることが目的だとすれば、1月29日の日本銀行による追加緩和は成功だったといえるだろう。

 同日昼すぎ、日銀がマイナス金利政策を導入するとのニュースが伝わると、日経平均株価は前日終値から475円超も跳ね上がり、ドル円レートは一気に2円超も円安に動いた(下図参照)。


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 市場関係者の間では、1月に日銀が追加緩和に踏み切るという予想はあったものの、内容は国債買い入れ額の拡大など従来の量的・質的緩和の延長線上で想定されていた。ところが日銀は、誰もがやらないだろうと思っていたマイナス金利の導入という奇策に打って出たのだ。

 1月29日の金融政策決定会合後の会見で黒田東彦・日銀総裁は、「量的、質的緩和に、金利という三つ目のオプションが加わった。今後は三つの次元全てで金融緩和を進めていく」と、金融政策のオプションが増えたことを強調した。

 しかし実情は全く逆だった。日銀は、金融政策のオプションが増えるどころか、他に選択肢がなかったが故に、マイナス金利の導入という窮余の策に頼らざるを得なかったのだ。

 日銀がこのタイミングでサプライズの追加緩和に踏み切った理由は大きく三つある。

第一の理由は、年が明けてからの世界的な株安と円高の進行だ。一時的ながら、日経平均が1万6000円を割り込み、ドル円レートが115円台に突入した場面もあった。

 背景には、中国経済のさらなる減速懸念と原油安による、世界的なリスクオフ(リスク資産を売って、資金を安全な資産に移すこと)の加速がある。それ故にリスク資産である株が売られて株安となり、相対的に安全資産だと見なされている円が買われて円高が進行しているのだ。円高は輸出企業の採算悪化につながるため、輸出企業の占める比率が大きい日経平均をさらに押し下げる要因となっている。

 第二の理由は、消費者物価の低迷である。原油安によるエネルギー価格の下落もあって、2015年12月の消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年同月比0.1%の上昇にとどまり、日銀が掲げるインフレ目標2%には程遠い状態が続いている。

 こうして日銀は、1月末のタイミングで何らかのアクションを起こさざるを得ない状況に追い込まれていく。しかし、日銀が打てる手は限られていた。13年4月に開始した量的・質的緩和は、すでに限界に達しつつあったからだ。これが第三の理由である。

 日銀は長期国債の保有残高を年間80兆円のペースで増加させるよう買い入れている。16年は、国債償還による減少分も考慮すると、買い入れ額は約120兆円に達するとみられる。これは、15年に財務省が発行した国債(1年物を除く)とほぼ同水準に当たる。明らかに日銀の国債の大量買い入れは限界にきているのだ。

 市場もそれを見透かしており、日銀の次の一手が市場を失望させれば、円高・株安の流れをさらに加速させる恐れもあった。だからこそ日銀は、このタイミングでサプライズを演出する必要があったのだ。

サプライズ効果以外
実効性に乏しい
マイナス金利政策

 日銀が繰り出したマイナス金利政策では、民間銀行が日銀の当座預金に資金を預けた場合に、一定の残高を上回る部分についてマイナス0.1%の金利を課す(当座預金残高の全てにマイナス金利が適用されるのではなく、プラス0.1%、ゼロ金利、マイナス0.1%の3段階に分かれている)。

 すなわち、預金しているのに0.1%の利子を払わなければならないのだ。このような「ペナルティー」を科すことによって民間銀行に企業への融資や有価証券などへの投資を促し、ベースマネーを増やすことを意図している。

 だが、「実効性に乏しい。絵に描いた餅だ」というのが市場関係者に共通した見方だ。

 まず、マイナス金利が適用されないように資金を他に振り向けようにも、企業の設備投資意欲が乏しいため貸出先がない。また、民間金融機関への影響を抑えるため、マイナス金利が適用される預金残高が限られているので、効果も限定される。

 さらに、量的緩和と齟齬が生じる恐れもある。日銀は大量の国債を民間金融機関から買い入れているが、金融機関にしてみれば、国債を日銀に売って当座預金にマイナス金利で積むインセンティブはどこにもない。その結果、日銀の国債買い入れが困難になる可能性もある。

 日銀は、マイナス金利分だけ国債の買い入れ価格が上昇するので、今後も国債の買い入れは可能だとしている。しかしこれは大きな危険をはらんでいる。将来、金利が正常化(利上げ)したとき、国債の価格は下落する。高値で買い入れを続ければ、日銀の損失はその分拡大する。

実効性に乏しく、現在の量的緩和との齟齬も生じかねないマイナス金利政策を、日銀はなぜ導入したのか。


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数日で剥落した
追加緩和の効果
懸念される副作用

「日銀の狙いは円安誘導に尽きる」と加藤出・東短リサーチ社長は言い切る。

 マイナス金利の導入で金利に下押し圧力が加わり、利上げを開始した米国との金利差が拡大することで、円売りドル買いの流れとなり円安に向かいやすくなるというわけだ。事実、14年には欧州中央銀行(ECB)がマイナス金利導入によって、ユーロ安の誘導に成功している。

 今回のサプライズ緩和で年初来下落傾向にあった株価は反転し、ドル円レートは円安に転じた、かに見えた。しかし、サプライズ効果は長続きしなかった。本稿執筆時点(2月3日)で、日経平均は1万7191円、ドル円レートは117円台と、緩和前の水準近くまで戻ってしまっている。中国経済の減速懸念や原油安などに端を発する世界的なリスクオフの流れは、しょせん日銀だけで変えられるようなものではなかったのである。

 黒田総裁は2月3日に都内で行った講演で、「マイナス金利付き量的・質的緩和は、これまでの中央銀行の歴史の中で、おそらく最も強力な枠組みだ」と強調し、必要があれば今後もちゅうちょなく追加緩和を行うと述べた。

 市場では早くも4月の追加緩和観測が浮上している。今年の春闘では世界景気の減速懸念もあって、賃上げがあまり進まないとみられているからだ。加えて、リスクオフの流れが止まらず、さらなる円高が進行する可能性もある。

 追加緩和の選択肢としては、量的・質的緩和が限界にきている中でマイナス金利のさらなる引き下げが有力だが、これは実効性に乏しいばかりか、大きな副作用をもたらす懸念がある。

 マイナス金利は銀行や生命保険会社の収益を圧迫する。企業の設備投資意欲が乏しい中、マイナス金利分を貸出金利には転嫁できない。長期国債の利回り低下で生保の運用環境は厳しくなる一方だ。マイナス金利が公表されて以降、銀行・生保株は下落を続けている。

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